鸚鵡返文武二道

鸚鵡返文武二道：寛政の改革への痛烈な風刺

『鸚鵡返文武二道』は、江戸時代後期、寛政元年（1789年）に恋川春町によって著された黄表紙です。全3巻からなるこの作品は、親しい間柄にあった朋誠堂喜三二の『文武二道万石通』に対する続編として構想されました。

『文武二道万石通』は、松平定信による寛政の改革、特に文武奨励策を批判的に描いた作品として当時大きな人気を博しました。その流れを汲む『鸚鵡返文武二道』もまた、寛政の改革を鋭く批判する内容を展開しています。特筆すべきはそのタイトルと文章表現で、当時の権力者であった松平定信が著した『鸚鵡言』を巧みに風刺している点にあります。

この作品は、その過激な内容が幕府の怒りを買い、寛政元年4月、春町は幕府から出頭を命じられます。しかし、春町は病気を理由に出頭を拒否し、同年7月にはこの世を去りました。この事件を巡っては、春町の死因について、幕府による圧力を受けた結果の自殺であったとする説も存在します。

物語は、延喜の御代を舞台に、菅秀才という人物が武芸の奨励に乗り出すところから始まります。しかし、この政策は人々の武勇を煽り、洛中で騒動を引き起こす結果に。そこで、菅秀才は聖賢の道を説く大江匡房を招き、学問の奨励を試みますが、これも人々の誤解を招き、新たな騒動を招いてしまうという皮肉な展開となります。

この物語における菅秀才と大江匡房は、それぞれ松平定信と柴野栗山をモデルとしていると考えられています。この作品は、単なるフィクションにとどまらず、寛政の改革に伴う武家の変化を風刺的に描いた、当時の社会情勢を反映した政治風刺小説と言えるでしょう。

『鸚鵡返文武二道』は、その大胆な批判精神と巧みな表現技法により、今日でも高い評価を受けています。寛政の改革という歴史的転換期における、民衆の心情や社会の矛盾を反映した貴重な作品として、歴史研究の上でも重要な資料となっています。

参考文献

水野稔「鸚鵡返文武二道」（『日本史大事典 1』平凡社、1992年）
林菫一「鸚鵡返文武二道」（『日本歴史大事典 1』小学館、2000年）

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