鹿島港南駅

鹿島港南駅（かしまこうなんえき）は、かつて茨城県神栖市に存在した駅です。鹿島臨海鉄道鹿島臨港線の駅として、1978年（昭和53年）から1983年（昭和58年）までのわずか5年間のみ営業していました。

設置の経緯

この駅が設置された背景には、鹿島港から新東京国際空港（現在の成田国際空港）へジェット燃料を輸送するという国家的プロジェクトがありました。本来は専用パイプラインで輸送される計画でしたが、工事の遅れから、暫定的に鹿島臨海鉄道を利用して運搬することになりました。

この臨時的な措置に対し、地元への配慮として旅客営業を行うことが決定され、鹿島神宮駅から神栖駅を経由して、当駅までの区間で旅客列車が運行されることになったのです。鹿島港南駅は、この暫定的な旅客路線の終着駅として設けられました。

駅の構造と運用

貨物輸送が主体だった鹿島臨港線にあって、当駅は例外的に旅客専用として造られました。しかし、その営業が一時的なものであることから、本格的な駅舎は建てられず、簡素な単式ホームに小さな屋根とベンチが設けられただけの無人駅でした。

駅の設備も最小限で、信号場としての機能もありませんでした。このため、当駅に到着した列車はすぐに折り返すことができず、一旦、隣の貨物駅である知手駅まで進み、そこで折り返して戻ってくるという特殊な運用が行われていました。

利用状況と廃止

廃止間際のダイヤは、1日にわずか3往復のみ、朝・昼・夜に鹿島神宮駅との間を往復する列車が設定されているだけでした。当時の駅周辺は開発が進んでおらず、水田や荒野、森林が広がる人里離れた場所でした。

このような立地もあり、地元住民の利用はほとんどなく、1日の平均乗降人員はわずか十数人程度だったと言われています。

さらに、この列車ダイヤは運転上の都合から、当駅に到着してから次の列車が出発するまで3時間から4時間も待つという極端なものでした。そのため、完乗を目指す熱心な鉄道ファンが列車で訪れても、すぐに折り返す手段がなく、途方に暮れることもあったようです。幸い、近くを通る国道124号線沿いにバス停があり、そこから銚子駅方面などへ移動することは可能でした。

このような秘境駅のような状況を示すエピソードとして、紀行作家の宮脇俊三氏が鹿島臨港線に乗車した際に、列車ではなく隣町の銚子からタクシーを利用して当駅を目指したという話も伝わっています。

そして、本来の目的であったジェット燃料輸送用のパイプラインが完成したのに伴い、鹿島臨港線の旅客営業は1983年に終了することになりました。旅客専用駅として設けられた当駅も、この営業終了とともにその役割を終え、廃止されました。

駅の現在

廃止後、駅があった場所の周辺には、県道240号線と鹿島港の南公共埠頭を結ぶ新たな道路が整備されました。かつてホームがあったあたりは、現在では道路と線路が交差する踏切となっています。残念ながら、駅の施設やホームの痕跡は一切残されていません。駅があったことを唯一偲ばせるのは、その場所にある踏切の名称が「鹿島港南踏切」と名付けられていることだけです。

歴史

1978年（昭和53年）7月25日：開設。
1983年（昭和58年）12月1日：廃止。

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