麻田豊

麻田豊氏は、日本のインド・イスラーム文化研究において重要な足跡を残した研究者です。特にウルドゥー文学およびインド・イスラーム文化論を専門分野とし、その深い学識は後進の育成や関連分野の研究に多大な影響を与えました。1948年8月24日にこの世に生を受け、2022年10月25日に74歳でその生涯を終えるまで、一貫してアジアの言語と文化、特に南アジア地域のイスラーム文化に関する研究に情熱を傾けました。

氏の学術キャリアは、まず東京外国語大学での学びから始まりました。1972年3月、同大学の外国語学部インド・パーキスターン語学科を卒業。この学科で培われた語学力と地域理解は、その後のウルドゥー語研究の基礎となりました。さらに学問を究めるため、1974年3月には東京外国語大学大学院外国語学研究科の修士課程を修了し、専門研究者としての素養を着実に積み上げました。

大学院修了後の1976年4月からは、海外での実務経験を積むことになります。パキスタンの主要都市、カラチにある日本国総領事館広報センターの職員として勤務。この約2年半の期間は、氏の研究対象であるインド亜大陸のイスラーム文化圏の言語や人々に直接触れる貴重な機会となり、その後の研究活動に生かされたと考えられます。

日本帰国後、氏は教育・研究機関でのキャリアを本格的にスタートさせます。1978年10月、大阪外国語大学外国語学部に助手として着任。大学での教育活動と並行して自身の研究テーマに取り組みました。そして、着任から約3年後の1981年7月には同大学で講師に昇任し、より主体的な立場で教育・研究に携わるようになりました。

同年10月には、氏は母校である東京外国語大学外国語学部へと活躍の場を移します。講師として着任後、長きにわたり東京外国語大学を拠点に研究と教育に尽力することになります。氏の専門分野であるウルドゥー文学やインド・イスラーム文化論に関する講義は、多くの学生にとってこれらの分野への理解を深める重要な機会となりました。1988年4月には助教授に昇任。研究者としての立場を確立し、自身の研究を深めるとともに、大学における教育・研究体制の中核を担いました。この時期、氏はインド・イスラーム世界の多様な文化現象や歴史、言語に関する研究を進め、その成果を発表していきました。

2009年には、東京外国語大学の大学院重点化に伴う組織改編により、4月からは世界言語社会教育センターの准教授として籍を置きました。これは、氏の専門分野が持つ学術的重要性や、教育への貢献が高く評価されていたことを示唆しています。しかし、そのわずか4ヶ月後の同年8月、氏は東京外国語大学を退職しました。長年にわたり、教壇に立ち、研究室で学生と向き合い、自身の研究に没頭した大学生活に一区切りをつけた形です。

大学退職から約13年後、2022年10月25日、麻田豊氏は心臓発作により74歳で逝去しました。氏がインド・イスラーム文化研究、特にウルドゥー文学研究にもたらした貢献は大きく、その学術的遺産は今後も多くの研究者や学生にとって貴重なものとして参照され続けるでしょう。氏の情熱と研究成果は、この分野の発展に不可欠なものでした。

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