黄体期

黄体期（おうたいき）

黄体期とは、ヒトを含む一部の有胎盤哺乳類の月経周期、あるいはその他の有胎盤哺乳類における発情周期の後半に位置する期間です。この時期は、排卵後に卵胞が変化して形成される黄体の活動開始とともに幕を開け、妊娠が成立するか、または黄体がその機能を終えて退行するまで続きます。周期全体の中で、受精卵が子宮内膜に着床し、妊娠が維持されるための生理的な準備が集中して行われる、極めて重要なフェーズと言えます。

黄体の形成とホルモン分泌

排卵が起こると、それまで卵子を包んでいた卵胞の壁が崩壊し、残った細胞が急速に増殖・変化して黄体と呼ばれる一時的な内分泌器官を形成します。黄体の主要な役割は、プロゲステロンというホルモンを大量に分泌することです。黄体期に入ると、このプロゲステロンの血中濃度がそれまでの期間と比較して顕著に上昇します。プロゲステロンは、エストロゲン（卵胞期に主に分泌されるホルモン）とともに女性の生殖機能を調節する重要なホルモンですが、黄体期においては特にその存在感が増します。

プロゲステロンの主な役割

黄体から分泌されるプロゲステロンは、主に以下のような働きを担います。

子宮内膜の準備: 卵胞期にエストロゲンによって厚く増殖した子宮内膜を、さらに成熟させ、受精卵が着床しやすい状態に変化させます。子宮内膜の血管や腺組織を発達させ、栄養分を豊富に蓄えるように促します。
妊娠の維持: 妊娠が成立した場合、プロゲステロンは子宮の収縮を抑え、受精卵や胎児が子宮内で安定して育つための環境を維持します。また、妊娠初期のプロゲステロンは、乳腺の発達にも関与します。
体温上昇: プロゲステロンには体温を上昇させる作用があり、黄体期には基礎体温が高温相となります。これは、月経周期を把握する上で重要な指標となります。
他のホルモンの抑制: プロゲステロンは、視床下部や下垂体に作用し、卵胞刺激ホルモン（FSH）や黄体形成ホルモン（LH）の分泌を抑制します。これにより、同じ周期内で新たな卵胞が成熟したり、排卵が再び起こったりするのを防ぎます。

黄体期の長さと終了

一般的に、黄体期の長さは比較的安定しており、約14日間続くことが多いとされています。この期間は、排卵から次の月経が始まるまでの間にあたります。

黄体期がどのように終了するかは、妊娠が成立したかどうかによって異なります。

1. 妊娠が成立しなかった場合: 受精卵が着床しないと、黄体は約14日間の寿命を終えて退行を開始します。これを黄体退行と呼びます。黄体が退行すると、プロゲステロンとエストロゲンの分泌量が急激に減少します。これらのホルモンのレベルが低下すると、子宮内膜は維持できなくなり剥がれ落ち、月経として体外に排出されます。これをもって、次の月経周期が開始されます。
2. 妊娠が成立した場合: 受精卵が子宮内膜に着床すると、胎盤からヒト絨毛性ゴナドトロピン（hCG）というホルモンが分泌されます。このhCGが黄体に作用し、黄体の寿命を延長させてプロゲステロンの分泌を維持させます。妊娠初期のプロゲステロンは、妊娠を維持するために不可欠です。その後、妊娠が進むにつれて胎盤自身がプロゲステロンを十分に産生できるようになり、黄体はその役割を終えます。

文献によっては、黄体期の終わりを、プロゲステロン分泌の減少によって子宮内膜への血流が減少し始める「虚血期」として区別して定義する場合もありますが、一般的には黄体退行とそれに続く月経前後の期間を含めて黄体期として捉えられます。

黄体期は、受精卵の受け入れ準備から妊娠の初期維持まで、生殖における終盤の重要な生理的変化が集約される期間であり、その正常な機能は妊娠の成立にとって不可欠です。

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