黄沢 (明)

黄沢（こう たく、生没年不詳）は、明代に活躍した官僚であり、その生涯は波乱に満ちていました。本貫は福州府閩県にあり、学問に励み、1412年（永楽10年）に見事進士に及第しました。この功績が認められ、黄沢は河南左参政という要職に抜擢され、その行政手腕を発揮することになります。

当時、南陽府では多くの流民が発生しており、社会不安が高まっていました。黄沢は、この状況を打開するために、流民たちを丁寧に慰撫し、彼らが再び生業に就けるよう尽力しました。その結果、南陽府の治安は回復し、黄沢の名声は高まりました。その後、黄沢は湖広左参政に転じ、引き続き民政に携わりました。その間も、彼は民衆の生活向上に力を注ぎ、その功績は多くの人々から称賛されました。

1424年（永楽22年）、洪熙帝が即位すると、黄沢は入朝を命じられ、時政について意見を述べました。黄沢の意見は、現状を的確に捉えたものが多く、その多くが採用されたと伝えられています。このことからも、黄沢の政治に対する深い洞察力と、国家を思う熱意がうかがえます。

洪熙帝の崩御後、1425年（洪熙元年）に宣徳帝が即位すると、新たな時代が始まりました。宣徳帝は、臣下の意見を広く求める詔を下し、これに応えて黄沢は「言正心・恤民・敬天・納諫・練兵・重農・止貢献・明賞罰・遠嬖幸・汰冗官」という十事を上疏しました。これは、黄沢が政治において重視すべきだと考えていた10項目であり、彼の政治思想が反映された重要なものでした。

1428年（宣徳3年）、黄沢は浙江布政使に抜擢され、浙江省の行政を担うことになりました。彼は、浙江省の財政状況を改善するために、平陽・麗水など7県の銀冶を廃止するよう進言しました。この進言は、当時の財政状況を考慮したものであり、黄沢の行政手腕を示すものでした。

黄沢は、その職務において数々の実績を上げましたが、一方で、短気で怒りやすい性格が災いすることも多くありました。ある時、塩運使の丁鎡が道を譲らなかったことに激怒し、丁鎡を鞭打ったという事件が起こりました。この事件は上奏され、黄沢の横暴な行為が問題視されました。さらに、巡按御史の馬謹は、黄沢が任期満了に際して白金三千両を収奪したと弾劾しました。これらの問題が重なり、黄沢は逮捕され、獄に下されることになりました。

1441年（正統6年）、黄沢はついに官爵を剥奪され、一介の民として生活することになりました。かつては官僚として活躍し、民政に尽力した黄沢でしたが、その短気な性格が災いし、晩年は不遇な生活を送ることになりました。

黄沢の生涯は、その政治手腕と短気な性格が織りなす、波乱に満ちたものでした。彼の功績は、明代の歴史にその名を刻みましたが、同時に、その人間的な欠点も教訓として残されました。

参考文献：『明史』巻164 列伝第52

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