黄河協奏曲

黄河協奏曲（こうがきょうそうきょく）

黄河協奏曲（正式名称：黄河鋼琴協奏曲）は、1969年に中華人民共和国において、中国中央交響楽団によって集団創作されたピアノ協奏曲です。この作品は、1939年に冼星海（せん・せいかい）が作曲した管弦楽と合唱のための壮大なカンタータ「黄河大合唱」を原曲としています。

成立の背景

この協奏曲が生まれたのは、文化大革命の最中という特殊な時代でした。当時の政治的な指導の下、西洋の楽器を用いた愛国的かつ民族的な内容を持つ音楽作品の創作が奨励されており、本作品はその代表例の一つとされています。ヴァイオリン協奏曲《梁祝（りょうちゅう）》などと共に、中国版社会主義リアリズム音楽の実例として位置づけられています。

原曲「黄河大合唱」について

原曲である「黄河大合唱」は、日中戦争下の1939年に、激動の時代における中国民衆の苦難、そして黄河を象徴とする民族の抵抗精神を力強く描いた作品です。光未然（こう・みぜん）が作詞を手がけ、初演は同年に延安で行われました。原曲は以下の構成を持っています。

前奏：黄河船夫曲
黄河頌
黄水謡
川辺対口曲
黄河怨
保衛黄河
怒吼吧　黄河

協奏曲への編曲

「黄河大合唱」をピアノ協奏曲として再構成する作業は、殷承宗（いん・しょうそう）をはじめとする複数の音楽家（儲望華、盛礼洪、劉庄などが参加）が中心となって行われました。原曲から特に重要な4つの楽章が選ばれ、ピアノとオーケストラのための協奏曲へと編曲されました。この過程で、演奏時間は原曲のおよそ3分の2程度に短縮されましたが、原曲の持つ力強い精神と主要な主題は、第四楽章にあたる「川辺対口曲」に関連する部分を除き、ほぼ全てが協奏曲へと引き継がれています。

楽曲構成

黄河協奏曲は全4楽章で構成されており、それぞれの楽章は原曲の「黄河大合唱」から霊感を得ています。楽章構成は以下の通りです。

1. 前奏曲「黄河の船頭の歌」 （黄河船夫曲）
Allegro molto agitato
黄河を力強く遡る船頭たちの姿を描いた、荒々しいエネルギーに満ちた楽章です。

2. 黄河をたたえる （黄河頌）
Adagio maestoso
雄大な黄河の景観と、中国文明の源流としての黄河への敬意を表す、荘厳で感動的な楽章です。

3. 怒れる黄河 （黄河憤）
Andantino grazioso
原曲のいくつかの楽章の要素を取り入れつつ、中国人民が受けた苦難や、それに立ち向かう不屈の精神を表現しています。

4. 黄河を護れ （保衛黄河）
Allegro
* 原曲の終曲に対応し、侵略者に対する抵抗と勝利への希望を力強く歌い上げる、フィナーレを飾る楽章です。

楽器編成

独奏ピアノ、ピッコロ（フルート持ち替え）、笛子（フルート持ち替え）、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、トライアングル、シンバル、ハープ、弦五部という編成です。中国の伝統楽器である笛子（またはその持ち替え）がオーケストラに組み込まれている点が特徴的です。

初演と録音

黄河協奏曲は、編曲完成の翌年である1970年に中国中央交響楽団によって初演されました。その後、国内外で演奏される機会が増え、特にピアニストの殷承宗による演奏は広く知られています。アメリカ合衆国では、著名な指揮者ユージン・オーマンディによる上演や録音も行われました。日本でも、林克昌指揮、群馬交響楽団演奏による録音（日本コロムビア制作、香港レコード社頒布）が存在します。

政治的な背景を持つ作品でありながら、その壮大な旋律と力強い表現力により、黄河協奏曲は現在でも中国を代表するピアノ協奏曲の一つとして世界中で演奏され、愛されています。

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