黄金のアデーレ 名画の帰還

黄金のアデーレ 名画の帰還

2015年に製作されたイギリスとアメリカ合衆国の共同製作による映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』（原題：Woman in Gold）は、実在した女性マリア・アルトマンの体験に基づき、ナチスによって奪われた家族の財産であるグスタフ・クリムトの傑作「アデーレ・ブロッホ＝バウアーの肖像 I」、通称「黄金のアデーレ」を取り戻すために彼女が起こした法廷闘争を描いています。

物語は1998年のロサンゼルスから始まります。ユダヤ教徒の老女ルイーゼの葬儀の後、彼女の妹であるマリア・アルトマンは、家族ぐるみで付き合いのあるバーバラ・シェーンベルクに弁護士を紹介してもらいます。バーバラの息子であり、大手法律事務所への就職が決まったばかりの若手弁護士ランディ・シェーンベルクは、当初は消極的でしたが、マリアの訴えに耳を傾けます。

マリアの叔母アデーレは、裕福なユダヤ人実業家フェルディナント・ブロッホ＝バウアーの妻でした。夫妻に子供はなく、マリアやルイーゼ姉妹は実の子のように可愛がられていました。フェルディナントはクリムトにアデーレの肖像画を描かせ、それが後に「黄金のアデーレ」と呼ばれるようになります。ルイーゼの遺品から見つかった古い手紙をきっかけに、マリアはナチスによる美術品収奪に対するオーストリアでの返還請求制度を知り、絵画の返還を望みます。返還請求には期限が迫っており、当初は断ろうとしたランディでしたが、絵画に隠された謎と、その推定価格が1億ドルに上ることを知り、上司と交渉してこの困難な案件に挑むことを決めます。

故郷オーストリアへの帰還を頑なに拒んでいたマリアも、ランディの説得に応じて共にウィーンへ向かいます。半世紀以上ぶりに訪れたウィーンの街で、マリアは美しい叔母アデーレ、芸術を愛した両親、そして夫となるフリッツとの出会い、さらにナチスの迫害から逃れるために祖国を離れた辛い記憶を呼び覚まされます。二人は現地の雑誌記者フベルトゥスの協力も得て、絵画の所有権に関する調査を進めます。

調査の結果、アデーレは1925年に亡くなる際、夫の死後、絵画を含む美術品をベルヴェデーレ美術館に寄贈するという遺言を残していたことが判明します。しかし、夫フェルディナントが亡くなったのは1945年であり、「黄金のアデーレ」はそれより前の1941年に既にナチスによって収奪され、美術館に収蔵されていました。さらに、絵画の購入に関する書類から、法的な所有者はフェルディナントであったことが確認され、アデーレの遺言に法的効力がないことが明らかになります。これにより、フェルディナントの遺書に基づき、マリアが絵画の返還を求める権利があることが判明します。

しかし、「黄金のアデーレ」はオーストリア共和国の象徴として国民に広く愛されており、オーストリア政府は美術品返還を謳いながらも、マリアの正当な請求を却下します。失意のうちに帰国の途につくマリアの思い出話を聞くうち、ランディは自身の祖先もまたナチスの犠牲者であることを改めて強く意識し、自身の当初の動機が金銭であったことを恥じます。

帰国から9ヶ月後、ランディは書店で偶然クリムトの画集を見つけ、オーストリア政府が米国内で商業活動を行っている事実を知ります。これは、米国内からオーストリアを相手に訴訟を起こすための条件を満たすことを意味しました。ランディは務めていた法律事務所を辞め、マリアを説得して訴訟に踏み切ります。さらに半年後、マリアは旧知の仲であるエスティ・ローダーの息子で、元駐オーストリア大使のロナルド・ローダーから協力を申し出られますが、これを断り、訴訟をランディに託します。アメリカの連邦最高裁判所は、マリアの訴えを審理すべきであるとの判断を下し、法廷闘争は新たな段階に入ります。

マリアが高齢であることから、ランディはオーストリア政府との和解を模索しますが、ナチスによる不当な収奪を認めさせたいというマリアの強い思いは揺るぎません。ランディが進めようとしたウィーンでの和解調停案にマリアは激しく反発し、彼を解雇しようとさえします。結局、調停の場にはマリア自身も現れ、ランディはオーストリアに対し、ナチスに加担し、ユダヤ人を迫害した過去と向き合うよう強く訴えかけます。この過程で、協力者であるフベルトゥスが、彼の父が熱心なナチ党員であった過去を償うため、そしてなぜ父がそうであったのかを理解するため、この活動に関わっていることが明かされます。

最終的に、「黄金のアデーレ」を含む美術品がマリアに返還されることが決定し、会場は拍手に包まれます。しかし、勝利したマリアの心は晴れず、ナチスから逃れる際に両親を置いてきたことへの悔恨の念に涙します。両親との最後の会話を思い出したマリアは、絵画をローダーのギャラリーに預けることを決意し、未来へ向かって歩み出します。

映画の終盤では、絵画のその後の運命、ランディとマリアの歩み、そしてナチスによって収奪された膨大な数の美術品が今なお返還されていない現状が示され、作品が提起するテーマの重要性が強調されます。

本作の主要キャストには、マリア・アルトマン役にヘレン・ミレン、ランディ・シェーンベルク役にライアン・レイノルズ、フベルトゥス・チェルニン役にダニエル・ブリュールらが名を連ねています。若き日のマリアはタチアナ・マスラニーが演じました。

製作においては、クリムトの絵画「黄金のアデーレ」の撮影用レプリカが5週間かけて精巧に制作されました。主要撮影はイギリス、オーストリア、アメリカ合衆国で8週間にわたり行われ、各地でのロケーション撮影が物語に深みを与えています。

批評家からの評価はRotten Tomatoesで支持率56%、Metacriticでスコア51/100と賛否が分かれましたが、観客からはCinemaScoreで「A」評価を得るなど高い評価を受けました。主演のヘレン・ミレンはその演技で全米映画俳優組合賞主演女優賞にノミネートされています。

この映画は、単なる美術品返還の物語にとどまらず、歴史的な不正義に対する個人の尊厳をかけた闘い、家族の絆、そして過去と向き合うことの重要性を描き出しています。

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