黒五類 (文化大革命)

黒五類（こくごるい）

概要

「黒五類」とは、中華人民共和国の文化大革命が始まった初期において、特定の政治思想である「出身論」に基づいて「労働者階級の敵」とみなされた五種類の社会階層を指す言葉です。当時の社会構造において、これらの人々は革命前の旧体制と結びついていると見なされ、厳しい立場に置かれました。この分類は、個人の思想や行動よりも、その出自や家族の背景を重視する血統主義に基づいていた点が大きな特徴です。

構成階層と社会的位置づけ

黒五類に具体的に含まれたのは、以下の五つの階層です。

地主（dèzhǔ）: 革命前に多くの土地を所有していた人々。
富農（fùnóng）: 平均的な農民よりも多くの土地や生産手段を所有していた人々。
反革命分子（fǎnggémìng fēnzǐ）: 共産党や革命に敵対すると見なされた人々。
破壊分子（hàihuài fēnzǐ）: 社会秩序や生産活動を妨害すると見なされた人々。
右派（yòupài）: 反右派闘争などで共産党の政策に批判的であるとされた人々。

これらの階層に属する人々だけでなく、その家族や親族も黒五類として扱われました。推定される対象者の総数は中国全土で約2億人に及んだとされており、これは当時の中国の人口の 상당部分を占めていたことになります。黒五類に指定された人々は、共産党組織への加入、学校への進学、公的な職への就職、人民解放軍への入隊など、人生における様々な機会において著しい差別や制限を受けました。これにより、彼らの社会的な上昇は極めて困難となり、生活全般にわたって不利益を被ることになりました。

これとは対照的に、労働者、貧農、革命幹部、革命軍人、革命烈士の五つの階層は「紅五類」と呼ばれ、革命に貢献した階級として社会的に優遇される立場にありました。

文化大革命期における弾圧

文化大革命が進行するにつれて、黒五類、特に四類分子（破壊分子）に対する弾圧はますますエスカレートしました。これは、社会的な混乱が増す中で、黒五類がその原因であるかのように位置づけられ、暴力的な糾弾の標的とされたためです。極端な事例としては、湖南省道県や北京市大興県などで、黒五類やその家族が多数殺害されるという凄惨な事件が発生しました。これらの虐殺は、革命の敵を排除するという名目のもとに行われた、極めて非人道的な行為でした。

血統主義への批判と晩年の変化

こうした出自に基づく差別や弾圧が社会問題となる中で、資本家出身の学生であった遇羅克（ぐうらく）は、1966年に『出身論』という論文を発表し、共産党が推進する血統論を公然と批判しました。彼は個人の評価は出自ではなく、その言動に基づいてなされるべきだと主張しました。しかし、この『出身論』は当時の政治指導部、特に中央文革小組によって危険思想と見なされ、遇羅克は1968年に反革命罪の容疑で逮捕されました。そして、1970年には処刑されるという悲劇的な結末を迎えました。

文化大革命が中期に差し掛かると、黒五類に対する呼称は「教育を行うことができる子女（中国語では「可以教育好的子女」）」へと改められました。これは、出自に関わらず教育によって思想改造が可能であるという考え方に基づくもので、表面上はいくらか待遇の改善が見られました。しかし、依然として彼らが社会生活において根強い差別や偏見に直面する状況に大きな変化はありませんでした。

改革開放以降

1970年代末から始まる改革開放の時代に入り、文化大革命は党によって全面的に否定されることとなりました。これに伴い、社会構造も大きく変化し、出自や家族の背景といった旧来の分類概念は次第に希薄化していきました。経済的な発展と社会の多様化が進む中で、黒五類という言葉自体も次第に使われなくなり、現代の中国社会では歴史的な用語として認識されています。出自が個人の評価や機会を決定するという、文革期の血統主義的な考え方は、今日では公式には否定されています。