出身成分

北朝鮮の出身成分とは

「出身成分」とは、北朝鮮における階層制度であり、個人の出自や思想に基づいて分類される身分制度です。「住民成分」または単に「成分」とも呼ばれ、個人の社会生活におけるあらゆる側面を決定づける重要な要素となっています。この制度は、西側諸国の社会では想像もできないほど、個人の運命を左右する強力な力を持っています。

出身成分の沿革

出身成分制度は、金日成が権力を確立する過程で生まれました。1950年代後半、金日成は自身の権力基盤を固めるために、反対勢力を粛清し、国民を忠誠度によって分類する政策を始めました。1958年から1960年にかけて実施された「中央党集中事業」では、全国民が「信頼できる者」「半信半疑の者」「変節者」の3つに分類され、その後、1966年から1967年の「住民再登録事業」によって、さらに「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3階層、そして51の細分類へと細分化されました。

この制度は、単なる出自の記録ではなく、個人の社会的地位、教育、職業、結婚、さらには住居まで、あらゆる生活の側面を規定します。住民台帳には、曾祖父の代からの職業や思想傾向が記録されており、この情報を改竄することは基本的に不可能です。

出身成分の三階層

出身成分は、大きく分けて「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」の3つに分類されます。

核心階層

「核心階層」は、国家体制に忠誠を誓う人々で構成され、人口の約3割を占めます。彼らは特権階級として、平壌での居住、高い教育機会、政府や党の要職への就任など、数多くの恩恵を受けます。しかし、党からの除名や政争によって、地位を失う可能性もあります。

動揺階層

「動揺階層」は、国家体制への忠誠心が不確かな人々で、人口の約5割を占めます。彼らは監視対象となり、昇進にも制限が課せられますが、忠誠度が高いと判断されれば、優遇措置を受けることもあります。大学進学の機会はありますが、党員や幹部、軍の将校になることは難しいとされています。

敵対階層

「敵対階層」は、国家体制に反抗的であると見なされる人々で、人口の約2割を占めます。彼らは差別的な扱いを受け、平壌などの主要都市への居住、党への入党、軍への入隊、高等教育機関への進学の機会は完全に閉ざされています。炭鉱や鉱山、農村での重労働を強いられ、些細なことで政治犯とされることもあります。

社会生活と出身成分

北朝鮮では、食料の配給量から就職、教育、結婚に至るまで、社会生活のあらゆる側面が出身成分によって厳しく管理されています。出身成分が「動揺階層」や「敵対階層」に分類された人々は、徹底的な差別と抑圧にさらされています。また、北朝鮮からの亡命者の多くは、出身成分制度による差別を理由の一つとして挙げています。1987年に起きたズ・ダン号事件では、脱北した医師の一家が「出身成分の低さから来る差別」を理由に亡命を希望しました。

また、芸術学校の試験に合格したにも関わらず、家系の問題で入学を諦めた人や、逆に、警察幹部の子弟であるという理由で、大学に合格した例など、北朝鮮社会が、出身成分によって大きく左右される階級社会であることがわかります。

帰国同胞と出身成分

日本から北朝鮮に渡った「帰国同胞」は、多くが「敵対階層」や「動揺階層」の最下層に分類され、差別と虐待を受けてきました。帰国事業で北朝鮮に渡った在日朝鮮人は、最下層に分類されています。しかし、ごく稀に、その後の努力や貢献が認められ、登用されるケースもあるようです。また、在日本朝鮮人総聯合会（総聯）の結成以前に日本共産党に在籍していたなどの理由で、例外的に「核心階層」入りした人も存在します。

強制収容所では、帰国同胞が「スパイ」の嫌疑をかけられ、特にひどい扱いを受けており、中には拷問で命を落とす人もいます。

自殺者と出身成分

北朝鮮では、自殺は「反体制行為」と見なされ、自殺者を出した家族は出身成分のランクを落とされ、常に当局から監視されます。このため、出身成分を改善するために、自殺を隠蔽したり、死因を偽ったりするケースも存在します。

労働災害の被害者

北朝鮮では「働かざる者、食うべからず」というスローガンが掲げられていますが、実際には、労働災害で働けなくなった人々も虐待の対象となっています。労働災害によって障害を負った人は、社会的に疎外され、再教育施設に送られるなど、厳しい境遇に置かれています。

社会主義における身分制度

北朝鮮は、建前上は身分制度が存在しない社会主義国家を主張していますが、実際には、厳格な出身成分制度が存在しています。これは、脱北者からの証言や国際社会からの指摘によって明らかになっています。北朝鮮当局は、このような事実を否定し、韓国による捏造であると主張していますが、国際的な人権団体や各国政府は、北朝鮮における深刻な人権侵害を強く非難しています。

金正恩体制と出身成分

金正恩体制においても、出身成分制度は依然として存在しており、社会の不公平感を生み出す要因となっています。金正恩自身の母親が在日朝鮮人であるという事実は、北朝鮮ではタブーとされており、金正恩体制の弱点となる可能性も指摘されています。また、出身成分制度は、市場経済の導入や核放棄などの政策を妨げる要因にもなっています。

出身成分を扱った作品

松岡圭祐の小説『出身成分』は、この制度を題材にしたフィクション作品として、その実態を広く知らしめる役割を果たしています。

まとめ

北朝鮮の出身成分制度は、個人の自由と平等な権利を侵害する深刻な人権問題です。この制度は、社会の不公平と格差を生み出し、北朝鮮の人々の生活を深く制限しています。国際社会は、北朝鮮における人権状況を改善するために、さらなる努力を続ける必要があります。

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