黒川能

黒川能について

黒川能（くろかわのう）は、山形県の庄内地方に伝わる、歴史ある伝統芸能であり、1976年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。この能楽は、世阿弥が大成した猿楽の伝統を受け継いでいますが、特定の能楽の流派には属しておらず、独自の形で500年以上にわたり伝承されてきた地域特有の文化です。

黒川能は、主に春日神社で行われる奉納神事として知られています。これにおいて、能を演じる前に住職や神主が春日神や氏神に許しを求める祈祷が行われます。このため、演者はプロの能楽師ではなく、地元の氏子が担うことが一般的です。この伝統は地域の人々によって大切に守られています。

一般に「黒川能」と呼ばれるものは、鶴岡市黒川に位置する春日神社での「王祇祭」において披露される能です。この祭りは旧正月の夜に行われ、神様を迎えるセレモニーが行われるとともに、能が披露されます。他にも、3月の祈年祭、5月の例祭、11月の新穀感謝祭など様々な時期に舞われる行事があります。また、羽黒山の出羽三山神社や鶴ヶ岡城の荘内神社でも奉納され、国外でも公演することがあります。1989年にはアメリカのコロラド州で海外初の公演が行われ、2008年にはフランス・パリでも公演されました。

王祇祭では、舞いを行う男児が健康に育つとされる大地踏が行われた後、能5番と狂言4番が披露されるという、地域の伝統が色濃く反映された内容です。翌日には、王祇様が社に帰るための神事も行われます。この祭りでは、黒川地区の住民が協力して作り上げる凍み豆腐が振る舞われることから、「とうふ祭り」という別名もありますが、近年の人口減少に伴い、その数が減少している状況です。

黒川能の起源は、中世の清和天皇がこの地で人々と自然に親しむ中で、秘事能を神秘的に教えたことに始まるとされています。また、後小松天皇の皇子が出家し、能の技術を伝授したとも言われています。さらに、武藤氏が京から能楽者を連れ帰ったことが、黒川能の発生に寄与したとの伝承も残っています。地元には、その名残を示す史跡や墓も存在し、室町時代から続く能装束が現存していることから、黒川能は少なくともこの時期には形作られていたと考えられています。

利用される衣装や道具には、重要文化財に指定されているものが多く、その中には清和天皇の御衣と称される能衣装や、古い能面も含まれています。地元の芸能として、これらは地域の誇りとして大切にされ、次世代へと受け継がれ続けています。

黒川能は、単なる演劇や祭りではなく、地域の人々の思いや文化が深く根付いた伝統芸能であり、今後もその独自性と魅力を持ち続けることでしょう。

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