春日神

春日神：信仰と歴史の軌跡

春日神は、奈良県奈良市にある春日大社の祭神として知られる四柱の神々を総称した呼び名です。春日明神、春日権現とも呼ばれ、全国各地に約1000社もの春日神社が存在するなど、広く信仰を集めてきました。それぞれの神々、そして春日信仰の歴史的変遷について詳しく見ていきましょう。

春日大社の四柱の神々

春日大社に祀られる四柱の神々は、武甕槌命、経津主命、天児屋根命、そして比売神です。

武甕槌命（たけみかづちのみこと）と経津主命（ふつぬしのみこと）は、それぞれ鹿島神宮、香取神宮の祭神として知られ、藤原氏の氏族の守護神として崇敬されました。
天児屋根命（あめのこやねのみこと）と比売神（ひめがみ）は、藤原氏の祖神として信仰の対象となっていました。

これらの神々が一体となり、春日神として信仰の対象となったことで、春日大社は、単なる神社の枠を超えた、信仰の中心地としての役割を担うことになります。

春日大社の創建と歴史的変遷

春日大社の創建は768年と伝えられています。創建以前には、現在の本殿廻廊西南隅にある摂社・榎本神社が当地の地主神を祀っていたとされます。この神は春日氏の氏神であり、春日信仰の原点とも言える存在でした。

春日大社の祭神の中でも、特に武甕槌命の存在感は創建当初から大きかったとされています。当時、中央政府が蝦夷討伐を進め、東北地方への関与を強めていた時代背景の中、武甕槌命と経津主命は武神として強い神威を持っており、鹿島神宮と香取神宮への寄進が盛んに行われていました。このことが、春日大社において武甕槌命と経津主命が、天児屋根命よりも上位に位置付けられる要因となったと考えられています。

大社の成立においては、鹿島神宮からの封戸（税の免除された土地）の寄進が最初に行われたことが特筆されます。当初は、春日大社が鹿島神宮の末社であるかのような形態をとっていたとも言われています。後に香取神宮からも援助を受けるようになると、鹿島神宮の圧倒的な影響力は徐々に薄れていきました。

850年には「春日大神社」という名称で叙位の文書に記されるようになり、四柱の神々を包括する春日大社独自のアイデンティティが確立されていきます。しかしながら、「春日明神」を鹿島神宮の祭神である武甕槌命と同一視する見方は、11世紀後半頃まで残っていたとされます。

このように、春日大社、そして春日神は、歴史的な変遷の中で、その祭神、信仰の対象、そしてその位置づけを変化させながら、現在の形へと発展してきたと言えるでしょう。

全国に広がる春日神社

春日大社を総本社とする春日神社は全国各地に点在し、それぞれの神社が地域社会に根付いた信仰の場として機能しています。本殿が重要文化財に指定されている神社や、独特の祭礼を行う神社など、多くの春日神社がその歴史と文化を伝えています。

春日神と神仏習合

春日神は神仏習合においても重要な役割を果たしました。本地垂迹説では、春日明神の本地仏として不空羂索観音があてられ、観音菩薩の化身と見なされていました。

まとめ

春日神は、藤原氏と深く結びつき、歴史的変遷の中で信仰を集め、全国に広がった神々です。春日大社を拠点に、その歴史、文化、そして信仰は現在も脈々と受け継がれています。それぞれの神社が持つ独自の様相も、春日信仰の多様性を示す重要な要素となっています。

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