黒瀬弘志

黒瀬弘志：激動の時代を駆け抜けた官僚・政治家

黒瀬弘志は、明治16年（1883年）に熊本県で生まれ、東京帝国大学を卒業後、内務官僚としてそのキャリアをスタートさせました。警察官僚時代には、交番を襲撃した暴徒に対し、自ら日本刀を抜いて先頭に立って戦ったという逸話が残っています。このエピソードからもわかるように、彼は非常に勇敢で、強い正義感を持った人物であったと言えるでしょう。

その後、岡山県や福岡県、山口県、兵庫県で警察部長や内務部長を歴任し、その手腕を発揮しました。大正14年（1925年）には山梨県知事に就任しますが、わずか4ヶ月後には神戸市長への就任要請を受け、同年の8月17日に第7代神戸市長に就任しました。

神戸市長としての黒瀬の功績は、特筆すべきものがあります。就任直後の昭和2年（1927年）に、日本は昭和金融恐慌に見舞われ、神戸もその影響を大きく受けました。特に、川崎造船所はメインバンクの休業によって経営危機に陥りました。この危機的状況に対し、黒瀬は緊急市会で同社を救済する方針を打ち出し、翌年には300万円もの債務弁済資金を貸与するという大胆な決断を下しました。この決断がなければ、神戸経済はさらに大きなダメージを受けていたかもしれません。

また、不況下にあって神戸市は緊縮財政を強いられましたが、一方で近隣の町村との合併を進め、人口は80万近くに増加しました。そして、昭和5年（1930年）には、市民の利便性向上を理由に区制を導入しました。この区制導入は、財政難を理由とする市会の反対を押し切って実現したもので、彼の強いリーダーシップを示すものと言えるでしょう。

昭和8年（1933年）に神戸市長を退任しましたが、不況下での運営手腕や党派色の薄さから、続投を望む声も多くありました。しかし、黒瀬は人心一新のため、自ら身を引くことを選択しました。

神戸市長退任後は、実業家として活躍し、昭徳興業株式会社の社長や東洋製紙株式会社の取締役などを務めました。

黒瀬弘志は、その生涯を通じて、持ち前の正義感と強いリーダーシップで、数々の困難を乗り越えてきました。彼の功績は、今もなお神戸市民に語り継がれています。また、彼はスポーツマンとしても知られ、テニスやゴルフを得意としていました。しかし、神戸市長時代にはゴルフの球が右目に当たり、失明するという悲劇にも見舞われています。

彼は1943年（昭和18年）にその生涯を閉じましたが、その卓越した才能とリーダーシップは、後世に大きな影響を与えました。

栄典

1916年（大正5年）1月19日 - 勲六等瑞宝章

参考文献

神戸新聞社（編） 編『神戸市長14人の決断』神戸新聞総合出版センター、1994年。ISBN 978-4-343-00656-1。
* 『山梨百科事典』増補改訂版、山梨日日新聞社、1989年。

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