黒質

黒質（Substantia Nigra）

黒質は、中脳の一部を占める神経核であり、ラテン語で「黒い物質」を意味します。大脳基底核を構成する中心的な要素であり、運動制御、報酬学習、依存症など、多様な脳機能に関与しています。

黒質の構造

黒質は、大きく分けて緻密部と網様部の二つの領域に分類されます。

黒質緻密部（Substantia Nigra Pars Compacta）

特徴: ニューロメラニン色素を多く含むニューロンが存在するため、肉眼では黒色を帯びて見えます。この色素沈着が黒質の名前の由来となっています。
ニューロン: ドーパミン作動性ニューロン（A9細胞集団）が豊富で、太く長い樹状突起を持ちます。これらのニューロンは、ドーパミンを線条体へ投射し、運動の円滑な実行や報酬学習に関与します。
詳細:
加齢に伴い、ニューロメラニンの量は減少します。
腹側被蓋野（VTA；A10細胞集団）や赤核後部（RRF；A8細胞集団）といった、他のドーパミン作動性ニューロンが存在する領域と連続的に分布しています。
Ventral Tier（A9v）とカルビンディン陽性のDorsal Tier（A9d）に区別されます。
GABA作動性の線条体入力や、網様部のGABA作動性ニューロンからの抑制性入力を受けます。
淡蒼球、黒質網様部、視床下核など、他の大脳基底核の構成要素にも軸索を投射します。

黒質網様部（Substantia Nigra Pars Reticulata）

特徴: GABA作動性ニューロンが密集しており、大脳基底核の出力核として機能します。高頻度の発火を維持しているのが特徴です。
役割: 線条体からの直接路出力を受けて発火が抑制され、その投射先の活動を脱抑制することで、運動の開始を円滑にします。
詳細:
緻密部と比較して、ニューロンの密度が低い。
淡蒼球のニューロンと形態が類似しています。
線条体または淡蒼球外節からのGABA作動性入力、視床下核からのグルタミン酸入力を受けます。
運動性の視床核（VA核）、上丘、脚橋被蓋核など脳幹の一部に出力します。

黒質の機能

黒質の主な機能は、以下の通りです。

運動制御: 緻密部のドーパミン作動性ニューロンは、線条体へのドーパミン供給を通じて、運動の開始、円滑性、および運動パターンの選択に重要な役割を果たします。
報酬学習: ドーパミン作動性ニューロンは、報酬予測誤差信号を担い、強化学習を通じて、どのような行動が報酬をもたらすかを学習するのに貢献します。このプロセスは、習慣形成や手続き記憶の形成にも関与します。
薬物依存: コカインなどの薬物は、黒質の報酬系を刺激し、中毒を引き起こす可能性があります。

黒質の病理

黒質の変性は、様々な神経疾患の原因となります。

パーキンソン病: 黒質緻密部のドーパミン作動性ニューロンの変性が主な病理であり、運動症状（振戦、固縮、無動など）を引き起こします。
その他: 統合失調症やうつ病における精神運動遅延にも、黒質の病理的変化が関与していると考えられています。

黒質は、脳の機能において非常に重要な役割を果たしており、その機能不全は深刻な神経疾患を引き起こす可能性があります。今後の研究によって、黒質の機能や病理に関する理解が深まることが期待されます。

関連項目

ドーパミン
脚橋被蓋核
線条体
淡蒼球
* 視床

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