龍居松之助

龍居 松之助

龍居 松之助（たつい まつのすけ）は、1884年（明治17年）1月9日に生まれ、1961年（昭和36年）2月16日に逝去した日本の造園史家、造園家、教育者、そして文筆家です。日本文化史、特に造園史の研究と教育に生涯を捧げ、近代日本における造園学の発展と普及に多大な功績を残しました。

来歴と学問的背景

東京市京橋区に生まれた松之助は、父・龍居頼三（1856-1935）のもと育ちました。東京府立第四中学校、学習院高等科を経て、1911年（明治44年）に東京帝国大学文科大学国史学科を卒業。1917年（大正6年）には同大学大学院に進学し、当初は住宅史の研究に従事しました。大学院では恩師の三上参次文学博士に加え、建築学者の伊東忠太、関野貞両工学博士にも師事。これらの学際的な学びは、後の日本造園史研究において、単なる歴史叙述にとどまらない、建築や空間構成の視点を取り入れた独自のアプローチを築く上で重要な基盤となりました。

教育者としての貢献

龍居松之助は、教育者としても精力的に活動しました。青山学院高等学部、日本女子大学校国文学部（教授）、早稲田大学理工学部建築学科、早稲田大学付属高等工学校など、様々な教育機関で教鞭を執りました。特に、1924年（大正13年）には東京高等造園学校の設立に協力し、1931年（昭和6年）には同校の校長に就任。造園教育の専門機関設立に深く関わり、その運営を担いました。東京高等造園学校は1942年（昭和17年）に東京農業大学に合併されますが、松之助は同大学に新設された緑地科（後に造園科）の教授となり、初代科長として、高等教育における造園学の体系化と人材育成に尽力しました。

造園界の発展と文化財保護

教育活動と並行して、日本の造園界の組織化にも貢献しました。日本造園学会や日本造園士会の設立にも積極的に参加し、専門家間の交流促進や技術向上に努めました。また、戦前は史蹟名勝天然記念物保存委員会、戦後は文化財保護委員会の専門審議会委員として、文化財保護にも深く関与。銀閣寺内東求堂御茶井戸石組の復元事業に携わるなど、歴史的な名園の保存・修復に技術的な指導を行いました。特に東京をはじめとする各地の由緒ある日本庭園の公開にあたっては、専門家としての知識を活かし、綿密な助言を提供することで、多くの人々が庭園美に触れる機会を創出しました。

造園作品と文筆活動

龍居松之助は、造園史の研究や教育だけでなく、実践的な造園にも携わりました。庭園構成における自然材料の活用や、日本庭園独自の伝統的な造園技術にも精通しており、花の碑（隅田公園内）の設計や、静岡の大観荘庭園（井上卓之氏との共同設計）など、多くの造園作品を残しています。また、文筆家としても活躍し、多くの著書を通じて日本の歴史や文化、そして日本庭園の美しさを広く紹介しました。代表的な著書には、『日本名園記』、『日本庭園史要』などがあり、これらの著作は日本庭園への理解を深める上で重要な文献となっています。さらに、英文での日本庭園に関する書籍も発刊し、海外への日本庭園文化の紹介にも貢献しました。

晩年と評価

1955年（昭和30年）に早稲田大学、1957年（昭和32年）に東京農業大学を退職した後も、日本の造園界に影響を与え続けました。長年の功績が認められ、1958年（昭和33年）には紫綬褒章を受章しています。子息である龍居竹之介氏も造園家として活躍しており、親子二代にわたって日本の造園界に貢献しました。

龍居松之助は、研究、教育、文化財保護、実践、執筆という多岐にわたる活動を通じて、日本の造園史、造園学、そして日本庭園文化の発展と普及に不可欠な役割を果たした人物です。

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