.mail

.mailは、インターネットのドメイン名システムにおいて、スパムメールの識別と排除を目的として導入が提案されたジェネリックトップレベルドメイン（gTLD）でした。

このトップレベルドメインは、2004年にスパム対策組織であるスパムハウス・プロジェクトによって提唱されました。その根本的な考えは、電子メールの受信者が、そのメッセージが信頼できる送信元からのものであるかを容易に判断できるようにすることにありました。具体的には、既知のスパマーとは無関係であり、連絡先情報が検証済みであると認証されたドメインのリストを維持することを主要な機能としていました。これにより、悪意のあるメールを効率的にフィルタリングし、ユーザーにスパムのないメール環境を提供することを目指していたのです。

.mailドメインには、いくつかのユニークな特徴がありました。まず、そのドメイン構造は、既存のドメイン名の後ろに「.mail」を付加するというものでした。例えば、既に「example.net」というドメインを所有している場合、「example.net.mail」のような形式になります。これは、既存の信頼性を引き継ぐ構造として設計されていました。また、セカンドレベルドメイン（example.netの部分）以下には、実際にメール送信に使用されるサーバーのホスト名が含まれることになっていました。

登録資格も厳格に定められていました。.mailドメインを取得できるのは、他のトップレベルドメイン（TLD）の下で6ヶ月以上運用実績があり、かつそのWHOIS情報の正確性が確認されている当事者に限られていました。さらに、他の多くのドメインとは異なり、.mailドメインは登録者の完全な管理下に置かれるわけではありませんでした。ドメインのステータスや連絡先情報は公開サーバーでアクセス可能であり、スパムに関する苦情は特定の窓口（例：[email protected].net）を通じて申し立てることができました。これらの苦情は、スパム活動を監視し、場合によってはスパマーとして登録されたドメイン名の登録を取り消す権限を持つ組織に通知される仕組みになっていました。

このドメインが普及すれば、メールフィルタリングソフトウェアがメッセージに関連付けられた.mailアドレスを照会し、そのアドレスが偽造されていたり、登録が失効していたりする場合には、そのメッセージを自動的に拒否するといった運用が可能になると期待されていました。

また、.mailの仕組みは、電子メールに限らず、他の種類のメッセージングインフラストラクチャを保護するために拡張できる可能性も秘めていました。さらに、フィッシング詐欺のようなインターネットを利用した犯罪に対処する法執行機関に対しても、重要な情報源を提供できる副次的な機能も想定されていました。

しかし、この提案にはセキュリティ上の懸念も存在しました。もし.mailドメインが承認されれば、スパマーからの執拗な攻撃の標的となることが予想されたためです。この潜在的な問題に対処するため、提案側はSpamhaus、VeriSign、eNomといったドメイン・セキュリティ分野の専門家たちの協力を得ると表明していました。

結局、.mailドメインはICANNによって承認されることはありませんでした。そして、2015年には、インターネット上のドメイン名衝突を回避するための方針の一環として、.corpや.homeといった他の提案中のドメイン名と共に、.mailが利用されないことが正式に決定されました。この決定により、.mailは実現されることなく、スパム対策ドメインとしての歴史を閉じたのです。現在、このドメイン名がインターネット上で使用されることはありません。

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