1,2-ジクロロエチレン

1,2-ジクロロエチレン：性質、用途、安全性

1,2-ジクロロエチレン(1,2-DCE)は、化学式C₂H₂Cl₂で表される有機化合物の一種です。特徴的なのは、分子構造の違いによってシス型とトランス型の2種類の幾何異性体が存在することです。どちらも無色の液体で、引火性があり、特有の刺激臭を放ちます。

物理的性質と化学的性質

シス型とトランス型では、沸点や密度などの物理的性質に違いが見られます。シス型の方が沸点が低く、密度も低くなっています。これは、分子構造における塩素原子の配置の違いが、分子間相互作用に影響を与えるためです。化学的には、どちらも他の有機化合物と反応しやすく、様々な化学反応を起こします。特に、塩素原子を含むため、求核剤との反応性に富んでいます。

用途

1,2-ジクロロエチレンは、その溶解性や反応性から、様々な用途に用いられています。代表的な用途として、他の塩素系溶剤の製造における中間体としての利用が挙げられます。また、樹脂、香料、染料などの抽出溶剤としても利用されています。これらの物質は、1,2-ジクロロエチレンの高い溶解力によって効率的に抽出することができます。さらに、洗浄剤としても使用され、精密機器などの洗浄に用いられています。

安全性

1,2-ジクロロエチレンは、麻酔作用を持つため、取り扱いには注意が必要です。高濃度の蒸気を吸入すると、めまい、嘔吐、頭痛などの症状が現れる可能性があります。また、中枢神経系にも影響を与える可能性があるため、作業環境では適切な換気と防護措置が不可欠です。

動物実験において、トランス-1,2-ジクロロエチレンのラットに対する経口投与の半数致死量（LD50）は1235 mg/kgと報告されています。これは、比較的高い値ですが、これはあくまで動物実験の結果であり、人体への影響を直接示すものではありません。シス型についても、同様の毒性を持つとされています。

日本では、シス型、トランス型ともに化学物質排出把握管理促進法（化管法）に基づき、第一種指定化学物質に指定されています。これは、環境への影響や人の健康への影響を考慮し、製造、使用、排出量の把握管理を徹底する必要があると判断されたためです。そのため、取り扱いには厳格な規制が適用されます。

環境への影響

1,2-ジクロロエチレンは、環境中へ放出されると土壌や水系に蓄積し、生態系に影響を与える可能性があります。揮発性が高いため、大気中にも拡散し、オゾン層破壊や地球温暖化への影響も懸念されています。そのため、環境への排出量を抑制するための対策が重要です。

まとめ

1,2-ジクロロエチレンは、有用な溶剤として様々な産業で使用されていますが、その毒性や環境への影響も無視できません。安全な取り扱いと環境保全のための適切な対策が求められています。そのため、使用にあたっては、安全データシート（SDS）を熟読し、適切な防護措置を講じる必要があります。また、廃棄処分についても、法令に従って適切に行うことが重要です。

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