10番街の殺人

「10番街の殺人」（Slaughter On Tenth Avenue）

「10番街の殺人」（原題：Slaughter On Tenth Avenue）は、アメリカ合衆国の著名な作曲家リチャード・ロジャースによって創作された楽曲です。この作品は、1936年にブロードウェイで初演された画期的なミュージカル『オン・ユア・トウズ』（On Your Toes）の一部として生まれました。単に劇中で演奏される楽曲にとどまらず、ミュージカル本編に挿入される「劇中劇」として上演されたバレエ作品のために作曲された音楽であり、バレエそのものの振り付けは、当時から傑出した才能を持つと評された振付家ジョージ・バランシンが手掛けました。

この「10番街の殺人」は、ミュージカルにおけるバレエの重要性を高め、物語を音楽と舞踊で表現する新しい試みとして注目されました。ロジャースによる楽曲は、ドラマチックな展開とサスペンスフルな雰囲気を持ち合わせており、バレエ作品としての見ごたえと相まって、強い印象を与えるものとなっています。このようにして、ブロードウェイの舞台で芸術的に成功を収めた作品として、その名を刻むことになります。

時を経て、この「10番街の殺人」は、世界的に人気を博したインストゥルメンタル・ロックバンド、ベンチャーズによってカバーされ、幅広い音楽ファンに知られることとなりました。ベンチャーズは、彼らのアルバム『ノック・ミー・アウト』（Knock Me Out）にこの楽曲のカバーバージョンを収録し、1964年にこのアルバムからシングルとしてリリースしました。

ベンチャーズによるシングルのB面には、『ラップ・シティ』（Rap City）という楽曲がカップリングされていました。この『ラップ・シティ』は、ドイツの偉大な作曲家ヨハネス・ブラームスによる名曲『ハンガリアン舞曲第5番』をインストゥルメンタル・ロックとしてアレンジしたものです。『ラップ・シティ』は、ベンチャーズの別の人気アルバム『ウォーク・ドント・ラン Vol.2』（Walk, Don't Run, Vol. 2）にも収録されており、ファンには馴染み深い楽曲でした。

ベンチャーズが1964年に発表したアルバム『ノック・ミー・アウト』は、全米アルバムチャートで最高位31位を記録し、その商業的な成功はバンドの当時の勢いを物語っています。そして、このアルバムからシングルカットされた『10番街の殺人』もまた、全米シングルチャートにおいて最高位35位にランクインするというヒットとなりました。これにより、ミュージカル版の存在を知らない人々も含め、多くのリスナーがベンチャーズによるインストゥルメンタル版を通じて、このドラマチックな楽曲に触れる機会を得ました。

ベンチャーズの演奏は、オリジナルのバレエ音楽が持つ緊迫感や叙情性を活かしつつも、エレキギターを中心としたダイナミックなサウンドで楽曲に新たな魅力を加えました。その結果、「10番街の殺人」は彼らの代表的なレパートリーの一つとして世界中で愛され続け、インストゥルメンタル・ロックのスタンダード曲の一つとしても認識されています。

このように、「10番街の殺人」は、ブロードウェイの舞台芸術として、そして時代を超えて愛されるインストゥルメンタル曲として、異なる二つの顔を持つ稀有な楽曲と言えるでしょう。リチャード・ロジャースの作曲センス、ジョージ・バランシンの革新的な振り付け、そしてベンチャーズによるパワフルな演奏が結びつき、今日まで多くの人々に感動を与えています。

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