1742年6月14日の海戦

1742年6月14日の海戦：イギリス艦隊による奇襲と中立侵犯

1742年6月14日、オーストリア継承戦争中に、地中海で小規模ながらも重要な海戦が発生しました。イギリス海軍のリチャード・ノリス艦長率いる小艦隊が、スペインのガレー船隊に対して奇襲を敢行。中立を謳っていたフランスの港にまで侵入し、ガレー船を焼き討ちにするという大胆な作戦を成功させました。この事件は、当時の国際関係における複雑な力学と、海軍力の重要性を示す出来事として注目されます。

背景：指揮官の交代と艦隊の派遣

1742年当時、イギリス海軍の地中海における総司令官はニコラス・ハドック提督でした。しかし、彼はスペイン艦隊との決戦をなかなか実現できず、その消極的な姿勢が批判を浴びていました。老齢も重なり、重圧に耐えかねたハドックは辞任を決意。後任にはリチャード・レストック少将が一時的に就任しますが、最終的には戦列艦7隻を率いて現れたトマス・マシューズ中将が総司令官の座を射止めました。

マシューズは、艦隊の基地をサルデーニャ王国のヴィッラフランカ・マリッティマとイエール諸島に定め、スペイン船の捜索と牽制のため、複数の小艦隊を派遣しました。このような状況下で、リチャード・ノリス艦長の小艦隊は、スペインのガレー船隊と遭遇することになります。

戦闘の経過：奇襲から中立港への侵入、そして焼き討ち

1742年6月13日、60門艦キングストンの艦長であるリチャード・ノリス率いるイギリス小艦隊は、ガロウペ岬沖を哨戒中に、スペイン軍のために大砲と弾薬を輸送中のスペインのガレー船5隻を発見しました。これらのガレー船は、パトロナ、サン・フェリペ、ソレダッド、サンタ・テレサ、サン・ゲナロという名前で、ドナト・ドマス将軍が指揮を執っていました。

ノリスは、50門艦オックスフォード、スループ船スペンス、火船デュークを率いて、ガレー船隊を追跡。ガレー船隊はフランスのサントロペ港に逃げ込みました。ノリスはサントロペ沖に到着すると、港の市長に対し、スペインのガレー船を入港させないよう要求しました。しかし、この要求は拒否されます。

ノリスは強硬手段に出ることを決意。その夜、艦隊から戦列艦2隻を防波堤に進ませて停泊させ、攻撃の準備を整えました。深夜1時、カリス艦長率いる火船デュークは、オックスフォードとキングストンの援護を受けながら港内に突入。スペインのガレー船は砲撃を開始しましたが、デュークは全てのガレー船を炎上させることに成功。ガレー船の乗組員は船を放棄し、岸まで泳いで逃げました。生き残った乗組員たちは、トゥーロンでフアン・ホセ・ナバロ提督の艦隊と合流しました。

戦闘後：外交的波紋と評価

フランス政府は、中立を侵害されたとしてイギリスに抗議しました。しかし、実際にはフランスは港をスペインに貸し与え、支援していたという背景がありました。イギリスの歴史家エドワード・カストは、「フランスの旗があまりにも頻繁にスペイン船を救うために使用されたため、中立という口実を捨てることは正当化されると思われた」と述べています。

火船デュークのカリス艦長は、この功績によりジョージ2世から金メダルを授与されました。彼はその後、アシスタンス艦に異動しました。一方、ドナト・ドマスとガレー船の艦長たちは軍法会議にかけられましたが、職務を全うしたとして無罪となりました。

この海戦は、イギリス海軍の果敢な行動を示す一方で、中立国の領海を侵犯するという国際法上の問題を提起しました。しかし、当時の国際政治の状況下では、イギリスの行動は一定の理解を得ていたと考えられます。この事件は、18世紀のヨーロッパにおける海軍力と外交の複雑な関係を浮き彫りにする事例として、歴史に刻まれています。

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