1779年の無敵艦隊

1779年の無敵艦隊：イギリス侵攻の試み

1779年、アメリカ独立戦争のさなか、フランスと新たに参戦したスペインは、イギリス侵攻を目的とした大規模な合同艦隊を編成しました。この作戦は、かつてスペインが挑んだ無敵艦隊になぞらえられ、イギリスに大きな脅威を与えました。

背景：仏西同盟とイギリスへの挑戦

1778年、フランス海軍はウェサン島の海戦でイギリス海軍に決定的な勝利を収めることができず、より大規模な艦隊を組織してイギリスに対抗しようと考えました。フランスは1778年2月にアメリカと仏米同盟を締結しており、1779年4月12日にはスペインと秘密条約（アランフエス条約）を結び、イギリスとの戦いにスペインを巻き込みました。スペインは、アメリカ大陸の植民地への影響を懸念し、アメリカを公然と支援することを避けていましたが、イギリス領土への直接攻撃には参加する意思を示しました。スペインは、特に地中海の要衝であるジブラルタル要塞の奪還を企図しており、この地域での覇権を確立しようとしていました。

1779年6月3日、フランスのブレスト港から艦隊が出港し、6月16日にはスペインがイギリスに宣戦布告しました。これにより、フランスとスペインの合同艦隊によるイギリス侵攻作戦が開始されました。

艦隊の集結と計画

フランス艦隊はドルビリエール伯爵の指揮下、30隻の戦列艦と多数の小型艦艇で構成され、スペイン北西のア・コルーニャ近くのシサルガ諸島でスペイン艦隊と合流する予定でした。しかし、スペイン艦隊は到着が遅れ、フランス艦隊は数週間にわたって待機を余儀なくされました。この待機中に、物資不足や壊血病、チフスなどの疫病が蔓延し、艦隊の士気と戦力は低下しました。

スペイン艦隊はドン・ルイス・デ・コルドバが指揮する36隻の戦列艦で構成され、7月22日にようやく到着しました。一方、フランス北部では4万人を超える陸兵と400隻の輸送船が集結し、イギリス海峡を渡ってワイト島または本土海岸に上陸し、基地を設ける計画が進められました。

当時のイギリス海軍は、海峡に40隻足らずの戦列艦を配備しており、指揮官には20年間デスクワークをしていた64歳のチャールズ・ハーディが就任したばかりでした。7月25日、仏西連合艦隊はイギリス艦隊の捕捉を目指して北に進発しましたが、逆風により進行は遅れ、艦隊内で疫病が拡大しました。

イギリス艦隊との対峙と作戦の失敗

ドルビリエールは、イギリス艦隊が海峡にいないことを知らず、ハーディ提督はフランス艦隊が大西洋に出たことを知ると、シリー諸島沖で哨戒を続けていました。8月14日、イギリス海岸から大艦隊が見えたという警報が全国に広まりましたが、8月15日にプリマス港を出航したHMSアーデントにはこの警報は届きませんでした。8月16日、フランス・スペイン連合艦隊は陸兵の上陸場所をコーンウォールのファルマス近くと決定しましたが、ドルビリエールはこれが最悪の決定だと考えました。翌日、アーデントは合同艦隊のフランス戦隊に遭遇し、イギリス艦隊だと誤認して捕獲されました。

合同艦隊はプリマス沖で停船し、ドルビリエールの伝言に対する返事を待ちましたが、8月18日に東からの強風に煽られ、大西洋に流されました。この結果、8月25日にハーディ艦隊の所在を掴むことができましたが、合同艦隊は病気と食糧不足に苦しんでいました。合同艦隊はシリー諸島方面に舵を切ってイギリス艦隊との決戦を試みましたが、ハーディはこれを避け、艦隊をポーツマスへ誘導しました。9月3日、イギリス艦隊は無傷でソレント海峡に到着し、戦闘準備を整えました。一方、合同艦隊は病気による戦力低下が深刻化し、上陸作戦の延期は秋や冬の到来を意味することから、作戦を中断してブレストへ帰還しました。

作戦の結末と影響

この侵攻作戦はイギリスにとって大きな脅威となり、特にジョン・ポール・ジョーンズ率いる戦隊が東海岸を脅かしたことで、沿岸部の防御が急遽強化されました。ポーツマス港のジルキッカー砦やドーバーのウェスタンハイツの建設も始まりましたが、これらは後にナポレオンによる侵攻計画への対応に役立ちました。

スペインにとって、この遠征はジブラルタル攻撃を妨げるものでしかなく、要塞は防衛を強化し、終戦まで持ちこたえました。フランスにとっては、莫大な費用をかけて艦隊を出し、多くの水兵を失った大惨事となりました。ドルビリエールはこの責任を問われ、辞任しました。フランスとスペインの合同艦隊は、その後も共同作戦を継続しましたが、イギリス海軍との正面対決を避け、孤立した守備隊への上陸支援に終始しました。

1779年の無敵艦隊は、結果として失敗に終わりましたが、イギリスに大きな脅威を与え、沿岸防衛の強化を促しました。また、この作戦は、アメリカ独立戦争におけるフランスとスペインの役割を示す重要な出来事として、歴史に記録されています。

もう一度検索