1784年イギリス総選挙

1784年イギリス総選挙：ウィリアム・ピットの勝利と政治的変革

1784年に行われたイギリス総選挙は、ウィリアム・ピット（小ピット）が勝利し、イギリスの政治に大きな影響を与えた出来事でした。この選挙は、単なる議席の奪い合いではなく、当時の政治情勢や社会構造、そして人々の意識の変化を反映したものでした。

選挙の背景：フォックス＝ノース連立内閣の崩壊とピットの台頭

1783年12月、ジョージ3世はフォックス＝ノース連立内閣を罷免し、ウィリアム・ピットを首相に任命しました。しかし、ピットは就任当初、庶民院での支持基盤が脆弱でした。フォックスとノースは、ジョージ3世の罷免が立憲主義に反すると主張しましたが、当時は現代のような「政府は庶民院の信任を得なければならない」という原則が確立されていませんでした。そのため、フォックスは慎重な対応を迫られました。

1784年2月、フォックスは内閣不信任決議案を提出しましたが、否決されました。その後も、フォックスは議案を提出し続けましたが、徐々に支持を失い、議案の提出を断念しました。一方、ピットは議会を離れ、郊外で過ごし、3月24日に議会が閉会すると、翌日に議会を解散しました。

選挙戦の様相：国政をめぐる激しい攻防

18世紀のイギリス選挙は、地方政治に焦点が当てられることが多かったのですが、1784年の選挙では、フォックス＝ノース政権の罷免とピットの首相続投という国政をめぐる選挙活動が展開されました。ピット派は、財務省による買収やパトロン活動を通じて、多くの懐中選挙区で勝利を収めました。また、有権者の多い選挙区でもピット派への支持が厚く、フォックス派の候補は、立候補を取りやめるか、敗北を回避するために妥協せざるを得ない状況に追い込まれました。カウンティ選挙区では、選挙協定で当選した候補を除き、選挙戦を戦って当選したフォックス派の候補はわずか1人でした。

野党にとどまりピット支持を拒否した結果、再選に失敗した候補は「フォックスの殉教者」と呼ばれました。

選挙は3月30日に始まり、5月10日に終結しました。選挙中には、ロンドンの巡査が殺害されるという事件も発生しました。

ピットとフォックスの選挙戦：注目の的となった二人の対決

ピットとフォックス自身の選挙戦は、特に注目を集めました。ピットは、長年ケンブリッジ大学選挙区からの当選を目指していましたが、1780年の選挙では敗北していました。しかし、1784年の選挙ではトップ当選を果たし、以降、死去するまで同選挙区の議員を務めました。

フォックスは、ウェストミンスター選挙区（定員2名）の現職であり、同選挙区にこだわったのは、人民を代表しているという自負があったからです。選挙戦では、与野党ともに中傷や名誉毀損など、手段を選ばない激しい戦いが繰り広げられました。デヴォンシャー公爵夫人ジョージアナが「フォックスに投票した者にもれなくキスを振る舞った」という噂や、王太子ジョージが選挙活動でフォックスを支持したという逸話も残っています。

5月17日に投票が終わると、フォックスは僅差で勝利しましたが、ピット派が投票再検査を要求したため、フォックスの当選は確定しませんでした。フォックスは、事態を予測し、庶民院から締め出されないように、テイン・バーグズ選挙区の議席を予め用意しました。投票再検査では、大規模な選挙不正は見られず、政敵による遅延戦術であることが明らかになりました。1785年3月、庶民院はフォックスの当選を決定し、投票再検査に終止符を打ちました。

1784年の総選挙は、ウィリアム・ピットの勝利によって、イギリスの政治が大きく転換する契機となりました。また、この選挙は、当時の社会情勢や選挙制度の問題点を浮き彫りにするとともに、政治家たちの戦略や人間ドラマを垣間見ることができる興味深い出来事として、歴史に刻まれています。

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