1808年12月22日のベートーヴェンの演奏会

1808年12月22日のベートーヴェン演奏会

1808年12月22日、作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンがオーストリアのウィーンにあるアン・デア・ウィーン劇場で開催したコンサートは、音楽史において極めて重要な出来事として記憶されています。この演奏会では、後にクラシック音楽の象徴となる交響曲第5番と第6番『田園』、そしてピアノ協奏曲第4番や『合唱幻想曲』といった大作が初めて公開の場で披露されました。当時、「アカデミー」と呼ばれたこの催しは、約4時間にも及ぶ長大なプログラムであり、冷え切った劇場の中で実施されました。舞台にはオーケストラ、合唱団、独唱者に加え、作曲家自身がピアニストとして登場しました。ベートーヴェンの伝記作家バリー・クーパーは、この演奏会を内容の豊かさからベートーヴェンのキャリアにおける「最も注目すべき」ものと高く評価しています。

開催に至る背景

1808年当時のウィーンでは、大規模なオーケストラ作品を演奏するための環境が必ずしも十分とは言えませんでした。市内の劇場は、政府が運営するブルク劇場やケルントナートーア劇場と、郊外にある私立の興行会社による劇場に分けられていました。ベートーヴェンが会場に選んだアン・デア・ウィーン劇場は後者に属しますが、開業当初は「当代随一の贅沢な装飾が施された、最大級の劇場」と称賛され、『一般音楽新聞』からは「全ドイツ中で最も快適で満足できる」と評されるなど、非常に評判の高い劇場でした。ベートーヴェン自身も、この劇場で以前から重要な作品を初演しています。

ベートーヴェンは1807年から1808年にかけて、アン・デア・ウィーン劇場で行われた慈善演奏会に作品を提供し、自身も協力していました。その見返りとして、自身の利益のための演奏会開催を数ヶ月にわたって劇場支配人のヨーゼフ・ハートルに働きかけ、ついに1808年12月22日の使用許可を得ました。ハルトルの煮え切らない態度に、ベートーヴェンは不満を抱いていたと伝えられています。この演奏会は12月17日付のウィーン新聞で告知され、当時コンサートを指す一般的な言葉であった「音楽『アカデミー』」と記されました。

プログラムの内容

演奏会は午後6時半に始まり、休憩を挟んで約4時間続けられました。披露されたプログラムは以下の通りです。

交響曲第6番ヘ長調 作品68『田園』
アリア『ああ、不実なる人よ』 作品65
ミサ曲ハ長調 作品86からのGloria（抜粋）
ピアノ協奏曲第4番ト長調 作品58
（休憩）
交響曲第5番ハ短調 作品67
ミサ曲ハ長調 作品86からのSanctusとBenedictus（抜粋）
即興によるピアノ独奏幻想曲
* 合唱幻想曲ハ短調 作品80

アリア『ああ、不実なる人よ』は1796年に作曲されたものでした。ミサ曲ハ長調は、前年にニコラウス・エステルハージ侯の後援で初演済みでした。プログラム最後の『合唱幻想曲』は演奏会の直前まで作曲されており、リハーサルも不十分なままでした。この曲は、ピアニスト、合唱、管弦楽を一堂に会させて演奏会を締めくくる役割を担っていました。劇場での宗教音楽の演奏には制約があったため、ミサ曲からの2曲はプログラム広告では大々的に宣伝されませんでした。

現代のコンサートと比較すると、このプログラムは非常に長大に感じられますが、当時のウィーンではそれほど珍しいことではなかったようです。メラニー・ロウの記述によれば、当時の聴衆が困難を感じるとすれば、それは次々と披露される複雑で斬新な作品群と、ホールの寒さだったと考えられます。

演奏体制と実際の演奏

自身の利益のためのコンサートを繁忙期に開催せざるを得なかったベートーヴェンは、適切な演奏家を十分に集めるのに苦労しました。アン・デア・ウィーン劇場所属の奏者たちも、多くがブルク劇場での音楽家協会の慈善オラトリオ公演など別の予定が入っており、そちらへの参加が優先されました。音楽家協会は慈善演奏会への参加を会員に求め、不参加者には罰金を課していたため、高い技量を持つプロの音楽家の多くがそちらへ流れた結果、アマチュアやセミプロで不足を補う必要がありました。さらに、ブルク劇場のコンサートに関わっていたベートーヴェンの元師であるアントニオ・サリエリは、ベートーヴェンの演奏会に参加した音楽家協会会員を追放すると脅すなど、妨害行為も見られました。こうした事情から、この夜のオーケストラは小規模になり、第一ヴァイオリンはわずか6名から8名程度だった可能性が高いとされています。

ベートーヴェン自身はピアニストとして、協奏曲のソリストを務め、即興で幻想曲を演奏し、『合唱幻想曲』でも独奏を行いました。しかし、これが彼にとってコンサートでピアノ協奏曲の独奏者として舞台に立つ最後の機会となりました。聴力の進行性の悪化により、ソリストとしての役割を全うすることが困難になっていたためです。同時代の記録では、ベートーヴェンがオーケストラの指揮もしたと記されていますが、彼の指示が一部に留まったか、あるいは楽団が彼の指揮でのリハーサルを拒否した可能性も指摘されています。

実際の演奏は、多くの証言で「まずい」と評価されています。ある批評はオーケストラについて、「あらゆる面で不足していると考えられる」と述べています。『ああ、不実なる人よ』のソプラノ独唱者は、経験の浅い10代の歌手でした。これは、当初予定されていたアンナ・ミルダーがベートーヴェンとの軋轢から降板したため、急遽代役として舞台に上がったためで、彼女は舞台の重圧に耐えきれず、本来の歌唱ができませんでした。最も演奏が不出来だったのは、リハーサルが不十分だった『合唱幻想曲』だったようです。一度、演奏中に楽譜通りに進まなくなってしまい、ベートーヴェンが演奏を止めて曲を最初からやり直すという前代未聞の事態が発生しました。イグナーツ・フォン・ザイフリートはこの場面の滑稽さを強調して書き記していますが、このやり直しは聴衆の一部に混乱や野次を招き、必ずしも良い結果とはなりませんでした。

聴衆と評価、そして収支

こうした数々の問題を抱えた演奏会でしたが、多くの聴衆はベートーヴェンの音楽そのものに熱狂し、劇場に足を運ぶことを望みました。ウィーンを訪れていた作曲家ヨハン・フリードリヒ・ライヒャルトもその一人で、彼は後に「極寒の劇場、異例の長さのプログラム、演奏の質の低さにもかかわらず、傑出した作品群に聴衆は熱狂した」と記しています。ベートーヴェンのパトロンであるロブコヴィッツ公爵もこの演奏会に出席しました。『一般音楽新聞』の批評も、演奏の質や寒さには触れつつも、作品の傑出性を高く評価しており、ライヒャルトの見解と一致しています。

この演奏会がベートーヴェンに最終的にどれだけの金銭的利益をもたらしたかは正確には分かっていません。ベートーヴェンの伝記作家であるアレグザンダー・ウィーロック・セイヤーは収支は不明としながらも、エステルハージ侯がこの演奏会の援助としてベートーヴェンに100グルテンを支払うよう命じた記録があることを付記しています。

現代における再現

この歴史的な演奏会は、そのプログラムの重要性とドラマチックなエピソードから、現代においても多くのオーケストラによって再現が試みられています。例としては、ニュージャージー交響楽団（1986年）、ボルティモア交響楽団（1998年）、ウィーン放送交響楽団（2008年）、サンフランシスコ交響楽団（2015年）、フィルハーモニア管弦楽団（2020年）など、世界各地の主要な楽団がこの壮大な一夜の再現に挑戦しています。

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