アントニオ・サリエリ

アントニオ・サリエリ：ウィーン宮廷を彩った作曲家と教育者

アントニオ・サリエリ (1750年-1825年) は、18世紀後半のヨーロッパ音楽界を代表するイタリア出身の作曲家です。ウィーン宮廷楽長として活躍し、多くのオペラ作品や宗教音楽などを残した一方、ベートーヴェンやシューベルト、リストといった後の巨匠たちを育成した名教師としても知られています。彼の生涯と功績、そして近年再評価の機運が高まっている彼の音楽世界を探ります。

イタリアでの幼少期とウィーンへの道

イタリア、レニャーゴに生まれたサリエリは、幼い頃から音楽に囲まれた環境で育ちました。兄やレニャーゴ大聖堂のオルガニストから音楽教育を受け、才能を開花させます。しかし、両親を相次いで亡くした彼は孤児となり、北イタリアのパドヴァやヴェネツィアで声楽や通奏低音を学びました。

1766年、ウィーンで活躍していた作曲家フロリアン・レオポルト・ガスマンがヴェネツィアを訪れた際、15歳のサリエリの才能を見抜き、ウィーンへ招きました。ガスマンはサリエリをウィーン宮廷に紹介し、サリエリはウィーンでの音楽家としての道を歩み始めることになります。ウィーンでは、グルックなどの著名な音楽家と交流し、音楽的視野を広げました。

ウィーン宮廷での成功とオペラ作品

サリエリは1770年、モリエールの戯曲を原作とするオペラ『女学者』でウィーン・ブルク劇場にて初舞台を飾り、作曲家としてのキャリアをスタートさせました。その後、数々のオペラ作品を発表し、特に1772年の喜劇オペラ『ヴェネツィアの市』は大成功を収め、彼の名声を確立しました。

彼はグルックのオペラ改革を支持し、初期作品にもその影響が見られます。1774年に師ガスマンが亡くなると、サリエリは皇帝ヨーゼフ2世によって宮廷作曲家兼イタリア・オペラ監督に任命されました。宮廷オペラ座が一時閉鎖された期間には、他の都市で作曲活動を行い、ヴェネツィアで作曲した『やきもち焼きの学校』はヨーロッパ各地で上演されました。

宮廷オペラ座再開後も精力的に活動を続け、詩人ロレンツォ・ダ・ポンテとの作品も発表しました。また、ミラノ・スカラ座の開場を飾った『見出されたエウローパ』を作曲する栄誉にも輝きます。1788年に宮廷楽長ボンノが亡くなると、サリエリは後継者として宮廷楽長に任命され、最晩年までその地位を維持しました。

パリでの成功と新しいオペラ様式

サリエリはイタリアオペラだけでなく、フランス語オペラにも挑戦し、パリでも成功を収めました。1784年の『ダナオスの娘たち』、1787年の『タラール』は代表作として知られています。『タラール』はイタリア語に翻訳され『オルムスの王アクスール』として上演されるなど、ヨーロッパ各地で上演されました。これらの作品では、オペラ・セリアとオペラ・ブッファ、イタリア・オペラとフランス・オペラの様式を融合させ、新しいジャンルの音楽を創造しようとしていたことがわかります。

後期の活動と教育者としての側面

墺土戦争の影響などで、宮廷でのオペラ活動が低調になった時期もありましたが、サリエリは宗教音楽や室内楽などの作曲を続けました。また、ウィーン楽友協会音楽院の指導者となり、多くの後進の育成に尽力しました。彼の教えを受けた作曲家には、ベートーヴェン、シューベルト、リストなど、後の音楽史を彩る巨匠たちが名を連ねています。

モーツァルトとの関係と誤解

サリエリに関する議論で最も有名なのは、モーツァルトとの関係です。彼らが対立していたという噂は、当時から広まっていましたが、それは裏付けのある事実ではありません。サリエリがモーツァルトを毒殺したという伝説は、映画『アマデウス』によって有名になりましたが、これは史実とは大きく異なるフィクションです。実際には、サリエリはモーツァルトの才能を認め、葬儀にも参列し、モーツァルトの遺作である『レクイエム』の初演にも関わっています。

死後と再評価

サリエリは晩年、認知症を患い、1825年にウィーンで亡くなりました。死後はしばらくの間、その名と作品は忘れられていましたが、シェーファーの戯曲『アマデウス』とその映画化によって再び注目を集めました。近年では、アルバム制作やサリエリ・オペラ音楽祭の開催など、音楽家としての再評価の動きも活発化しています。

主要作品

サリエリは多くのオペラ、宗教作品、器楽曲などを残しました。代表的な作品には、『ヴェネツィアの市』『ダナオスの娘たち』『タラール』『レクイエムハ短調』などがあります。これらの作品は、現代でも演奏され、聴衆を魅了し続けています。

まとめ

アントニオ・サリエリは、ウィーン宮廷楽長として活躍しただけでなく、数々の名作を生み出し、多くの優れた作曲家を育成した、重要な音楽家でした。彼の人生と作品は、18世紀後半の音楽史を理解する上で欠かせないものとなっています。近年、誤解や伝説から解放され、音楽家としての真の姿が再評価されている点は特筆に値します。

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