ケルントナートーア劇場

ケルントナートーア劇場の歴史

ケルントナートーア劇場（Theater am Kärntnertor）は、かつてオーストリア帝国の首都ウィーンに存在した歌劇場です。1709年、建築家アントニオ・ベドゥッツィの設計によって開場しました。劇場支配人ヨーゼフ・アントン・ストラニツキーのもと、宮廷劇場でありながらも、あらゆる階層の人々に開かれた劇場として、市民に親しまれました。劇場名は、その所在地がケルンテン門の脇であったことに由来します。

開場から半世紀ほど経った1761年、劇場は火災により焼失してしまいますが、1763年にはニコロ・パカッシの設計によって再建されました。その後、19世紀になると、新たにウィーン宮廷歌劇場が建設され、その機能が移管されることになり、ケルントナートーア劇場は1870年に閉鎖されました。劇場の跡地には、現在ホテル・ザッハーが建っています。

ケルントナートーア劇場と音楽家たち

ケルントナートーア劇場は、数多くの音楽家たちと関わりを持ち、音楽史に残る重要な初演が数多く行われました。作曲家ヴィヴァルディは、晩年にこの劇場の為にオペラを作曲し、劇場に隣接する宿舎で1741年に亡くなっています。また、同劇場では、もう一つの宮廷劇場であったブルク劇場とは対照的に、主にドイツ語の劇が上演され、「ドイツ劇場」とも呼ばれていました。イタリア語のオペラも上演されましたが、ドイツ語喜劇に混ぜて上演されることが多かったようです。ハイドンの初期のジングシュピール作品である『新版せむしの悪魔』は、そのような形態の劇の例です。

1776年にヨーゼフ2世がブルク劇場を「国民劇場」とする改革を実行して以来、ケルントナートーア劇場は常設の劇団を持たなくなり、主にコンサートや他から来訪した劇団の上演に使われる場所になりました。ハイドンのドイツ語オラトリオ『天地創造』は、1798年にシュヴァルツェンベルク侯爵邸で私的に初演された後、1799年3月19日にこの劇場で公開初演されました。

19世紀に入ると、1814年5月23日にはベートーヴェン唯一のオペラ『フィデリオ』がここで初演されました。また、ナポリのサン・カルロ[[劇場]]の支配人であったドメニコ・バルバイアがウィーンに進出し、ケルントナートーア劇場の事実上の支配人となりました。彼は、1822年にウェーバーの『魔弾の射手』とロッシーニの『ゼルミーラ』をウィーン初演し、ウィーンにロッシーニ旋風を巻き起こしました。翌年には、ウェーバーの『オイリアンテ』もこの劇場で初演されています。1824年5月7日には、ベートーヴェンの交響曲第9番とミサ・ソレムニスが初演されるなど、数々の音楽史に残る重要な初演が行われました。

ケルントナートーア劇場は、その歴史の中で、様々な音楽作品が上演され、数多くの音楽家たちが活躍した舞台であり、ウィーンの音楽文化において重要な役割を果たした劇場でした。

参考文献

武川寛海『「第九」のすべて』現代芸術社、1987年。ISBN 4874630812。
Heartz, Daniel (1995), Haydn, Mozart, and the Viennese School, 1740-1780, W.W. Norton & Company, ISBN 0393037126

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