1896年アテネオリンピックの陸上競技・男子砲丸投

1896年アテネオリンピック 男子砲丸投

近代オリンピックの最初の大会、1896年アテネオリンピック。その陸上競技において、男子砲丸投げは注目を集めた種目の一つでした。大会二日目の4月7日に開催され、7名の選手がこの歴史的な競技に挑みました。当初15名がエントリーしていましたが、実際に出場したのはその半数にも満たない人数でした。

競技の背景

この競技は、開催国ギリシャで特に高い人気を誇っており、地元選手の活躍に大きな期待が寄せられていました。実際、ギリシャからは2名の選手が出場し、見事にメダルを獲得しました。しかし、当時の陸上界で最高の選手と目されていたアイルランドのデニス・ホーガン（Denis Horgan）や、世界記録保持者であったジョージ・グレイ（George Gray）は、エントリーこそしたものの、残念ながら出場を見送りました。

競技形式

競技形式については、現代の基準から見ると不明瞭な点が多く残っています。原則として1ラウンドで行われたとされていますが、具体的な進行方法は資料によって記述が異なります。一般的には、各選手が3回の試技を行い、その後上位4名がさらに3回試技を行ったと考えられていますが、公式報告書には「5名の選手がしばらくして競技を終了し、ゴウスコス（Miltiadis Gouskos）とギャレット（Robert Garrett）だけがかなりの時間、競技を続けた」との記述も見られます。また、投てきを行うサークルは一辺が2.13メートルの正方形であったことが記録されています。ジョージ・S・ロバートソン（George S. Robertson）は、この競技が「イギリスの規則の下で開催されるとされていたが、既知の規則はない」と述べており、競技場の特殊性や規則の曖昧さが、記録された距離に影響を与えた可能性も指摘されています。

結果とその差異

競技結果についても、完全に明確になっているわけではありません。上位3名の選手とその最高記録は比較的確かですが、それ以下の順位や記録、さらには出場選手の総数や名前リストに至るまで、情報源によって食い違いが見られます。国際オリンピック委員会（IOC）の記録では7名の選手が出場し、上位4名がランク付けされています。優勝はアメリカ合衆国のロバート・ギャレットで、記録は11メートル22センチでした。これに対し、地元ギリシャのミルティアディス・ゴウスコスは、公式報告書によれば「数センチメートル」の差で2位となりました。IOCのウェブページではゴウスコスの記録は11メートル20センチとされていますが、他の資料では異なる数値も提示されています。3位に入ったもう一人のギリシャ選手、ゲオルギオス・パパシデリス（Georgios Papasideris）の記録10メートル36センチについては、多くの情報源で一致しています。

しかし、4位以下の選手とその記録については、資料間の差異が特に顕著です。情報源によっては、IOCやOlympediaが示すリストとは全く異なる選手名が挙げられています。例えば、IOCやOlympediaはデンマークのヴィゴ・イェンセン（Viggo Jensen）を4位とし、その他数名を5位以下としていますが、別の資料では全く異なる選手リストと順位が示されており、記録についても情報源によって差異が見られます。IOCは3位以下の選手の記録を掲載していません。

上位選手の戦い

記録された投てきの順序はほとんど不明ですが、上位2名の選手、ギャレットとゴウスコスの戦いは特に劇的でした。ギャレットは最初の試技で最高の記録（11m22cm）を出し、一方のゴウスコスは最後の試技で自己ベストを更新しました。ゴウスコスの最後の投てきはギャレットの記録に非常に迫るものであったため、会場のギリシャ人観客は勝利を確信し、一時は公式スコアが誤ってゴウスコスを勝者と発表したという混乱もありました。しかし、最終的には記録が訂正され、ロバート・ギャレットが初代オリンピック砲丸投げ王者に輝きました。

近代オリンピック最初の大会という性質上、この男子砲丸投げ競技に関する記録は、必ずしも統一されておらず、情報源による違いが見られます。競技形式の不明瞭さや、結果の解釈における複数の説は、この時代のスポーツイベントの記録の取り方がまだ確立されていなかったことを示唆しています。それでもなお、7名の選手たちによる歴史的な試みは、現代に続く陸上競技の礎を築いたと言えるでしょう。

もう一度検索