1911年の航空

1911年は、世界の航空史において極めて重要な進歩が記録された一年でした。この年、航空技術は目覚ましい発展を遂げ、後の時代の空の旅や軍事利用の基礎が築かれました。

年の初頭には、困難と犠牲がありました。1月には、ヨーロッパで飛行船の調査にあたっていた日本の相原四郎大尉が墜落事故で負傷し、残念ながら命を落としています。しかし同時に、アメリカ海軍ではセオドア・G・エリソンが海軍パイロットとして最初の飛行を成功させ、軍事航空の夜明けを告げました。2月には、アメリカのバージェス社がライト兄弟から製造ライセンスを得て航空機の生産を開始。また、フランスではレオン・ルマルタンが8人を乗せて飛行するなど、旅客輸送の可能性も示されました。アンリ・ペケによるインドでの公式航空郵便飛行は、航空機が新たな輸送手段となる未来を予感させました。

春には、日本の航空史における重要な一歩がありました。4月1日、所沢に日本で最初の飛行場が完成したのです。国際的には、ピエール・プリエがロンドンからパリまで無着陸で飛行するという離れ業を成し遂げ、航空機の信頼性と航続距離の向上を示しました。5月に入ると、アルゼンチンやポーランドで自作機による飛行が成功し、個人による航空開発の広がりが見られました。日本でも奈良原三次が自作機での飛行に成功しています。チェコのヤン・カシュパルは100kmを超える長距離飛行を成功させ、実用的な航空機の能力を示しました。

5月後半には、航空機の性能とパイロットの技量を試す過酷な長距離レースが開催されました。パリ-マドリード間レースは1200kmの長丁場で、参加機のほとんどが完走できないほど難易度が高く、ジュール・ヴェドリーヌが優勝しました。続いて行われたパリ-ローマ間レースでも、アンドレ・ボーモンがローラン・ギャロスを抑えて勝利しています。これらのレースは、航空機の技術的課題とパイロットの危険を伴う挑戦を示しました。

6月には、エドゥアール・ニューポールが時速133kmという新たな速度記録を樹立し、航空機の高速化が進みました。同月開催されたヨーロッパ一周レースは、1600kmを争う当時最長のレースの一つであり、ここでもアンドレ・ボーモンが優勝しましたが、レオン・ルマルタンが事故死するなど、航空黎明期の危険性が浮き彫りになりました。

夏にかけて、航空は新たな分野へ拡大しました。7月、イギリスのホレーショ・バーバーは、有償で電球を運ぶという、記録上最初の商業貨物輸送飛行を行ったとされています。また、この年は女性パイロットの活躍も目立ち始めました。8月には、ハリエット・クインビーがアメリカ初の女性パイロットライセンスを取得したのを皮切りに、ロシアのリディヤ・ズベレワ、イギリスのヒルダ・ヒューレットがそれぞれの国で初の女性パイロットとなりました。9月にはドイツでもメリ・ベーゼが初の女性ライセンス取得者となっています。

9月には日本の山田式1号飛行船が自由飛行に成功し、航空機だけでなく飛行船の開発も進んでいました。しかし、航空機のパイオニアであるエドゥアール・ニューポールがデモ飛行中の事故で命を落とすという悲劇もありました。アメリカでは、クロムウェル・ディクソンがロッキー山脈越えという、地形的な難関を克服する飛行に成功しました。

秋には、航空産業の形成と軍事利用の始まりが見られました。10月にはフランスでモラーヌ・ソルニエ社が設立され、有力な航空機メーカーが誕生しました。また、同月、伊土戦争において航空機が偵察任務に初めて実戦投入されました。さらに11月1日には、イタリア軍のジュリオ・ガボッティが航空機からの爆弾投下を行い、これが歴史上最初の航空機による爆撃とされています。日本の所沢飛行場では、初の国産軍用機である会式一号機が飛行に成功し、軍用航空の国産化に向けた歩みが始まりました。チェコ出身のボジェナ・ラグレロヴァーもドイツで飛行免許を取得し、女性の国際的な活躍が進みました。一方、オーヴィル・ライトは動力飛行機ではないグライダーで長時間飛行を行い、基礎研究の重要性を示しました。

そして11月5日、カルブレイス・ロジャースが「ヴィン・フィズ号」で北米大陸横断飛行を達成しました。49日を要し、途中で何度も墜落しながらも成し遂げたこの飛行は、長距離飛行の可能性と困難さの両方を示す偉業でした。

この年、フランス飛行クラブ大賞は、パリ-マドリード間レースを制したジュール・ヴェドリーヌに贈られました。1911年は、事故や犠牲を伴いながらも、長距離飛行、高速化、軍事利用、そして女性パイロットの台頭など、航空が様々な分野で大きく前進した、まさに黎明期を象徴する一年と言えるでしょう。

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