1922年の航空

1922年は、航空技術の進化、商業航空の黎明、そして軍事分野における航空の重要性の高まりが顕著に見られた、航空史において多面的な展開を遂げた一年でした。

技術面では、速度記録の更新や長距離飛行の達成が注目されました。同年9月にはフランスのジョゼフ・サジ＝ルコワントがニューポール・ドラージュ機で時速341.023キロメートルの速度記録を樹立し、当時の航空機の性能向上を如実に示しました。また、イタリアのナポリで開催されたシュナイダー・トロフィー・レースでは、スーパーマリン シーライオンIIが時速234.5キロメートルの速度で優勝し、水上機の高性能化が進んでいることを証明しました。長距離飛行の分野では、ポルトガル海軍のガーゴ・コーチニョとサカドゥラ・カブラルが3月から約80日間をかけて水上機でリスボンからリオデジャネイロまでの南大西洋横断飛行を成功させ、大陸間飛行の可能性を示しました。アメリカでは、9月にジミー・ドーリットルがフロリダからカリフォルニアまでを21時間19分で飛行し、初めて一日以内にアメリカ大陸を横断した記録を樹立しました。ヘリコプターの開発も進められ、6月にはヘンリー・ベルリナーがアメリカ陸軍向けにヘリコプターのデモ飛行を実施しています。日本の航空機開発では、陸軍航空学校研究部が国産戦闘機を目指した校式二型試作戦闘機を初飛行させましたが、残念ながら開発は中止となりました。

軍事航空においては、航空機を洋上から運用する基盤が固まりつつありました。アメリカ海軍は3月に初の航空母艦となる「ラングレー」を就役させ、本格的な空母運用時代の幕開けを告げました。10月には同艦からの発艦（バージル・C・グリフィン中尉）および着艦（ゴッドフリー・シャヴァリア）が相次いで成功し、空母の実用化に向けた重要なステップを踏み出しました。国際政治の影響も航空分野に及びました。4月にはドイツとソビエト連邦の間でラパッロ条約が締結され、第一次世界大戦後に航空活動を制限されていたドイツが、ソ連の協力の下で航空訓練を行う道を開きました。また、南米ではパラグアイの内戦中に航空機同士の空中戦が発生し、航空機が実際の戦闘において果たす役割が現実のものとなりつつあることを示しました。

民間航空も着実に歩みを進めました。5月にはドイツとソ連の共同出資による航空会社Deruluft（Deutsche-Russische Luftverkehrs）が設立され、8月から乗客輸送を開始しました。イギリスのInstone Air Lineは5月にロンドンとブリュッセル間の商業飛行を開始し、後のインペリアル航空へと繋がる基盤を築きました。日本でも6月に日本航空輸送研究所が設立され、民間航空輸送の幕が開きました。オーストラリアではカンタス航空が11月にクイーンズランド州で定期便の運航を開始しています。ハンガリーでも11月にMalert（Magyar Legiforgalmi）が設立されるなど、世界各地で航空会社が誕生し、航空網が広がりを見せました。しかし、急速な発展の陰で安全性の課題も浮き彫りとなりました。4月にはダイムラー航空とグラン・エクスプレス航空の旅客機同士が空中衝突し、乗員・乗客合わせて7名が犠牲となる、旅客機間の最初の空中衝突死亡事故が発生しています。

人物関連では、各国の航空パイオニアが登場しました。日本では3月に兵頭精が三等飛行機操縦士免状を取得し、初の女性パイロットとなりました。一方で、スウェーデンで最初の女性パイロットであったエルザ・アンデルソンは1月にパラシュート・スタントの失敗により命を落とすという悲劇も起こりました。この年のフランス飛行クラブ大賞は、航空黎明期に貢献したクレマン・アデールに授与されました。

1922年は、航空が技術、商業、軍事の各分野でその可能性を広げた一方で、安全対策の確立や技術的な限界も示された、発展途上の時代を反映する一年であったと言えます。

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