1936年のテレビ

1936年は、世界のテレビ放送史において画期的な一年となりました。各国で技術開発が進み、その成果として新たな放送や試みが開始されたのです。

まずアメリカでは、RCA（Radio Corporation of America）を率いるデイヴィッド・サーノフの主導のもと、同社の子会社であるNBC（National Broadcasting Company）が電子式テレビジョン技術を用いた実験放送を実施しました。これは7月7日に行われ、約30分間にわたる番組でした。演説、ダンス、歌といった様々な要素を取り入れたバラエティ形式で、343本の走査線を持つ約22センチメートルの画面に、毎秒30コマの映像を表示することで実現しました。この実験は、その後のアメリカにおける電子式テレビ放送の発展に向けた重要な一歩となりました。

次にドイツでは、同年の8月に開催されたベルリンオリンピックにおいて、テレビを使った歴史的な試みが行われました。1935年から既に定時放送を行っていた「パウル・ニプコウテレビ局」が、このスポーツの祭典をテレビで実況中継したのです。使用されたのは180走査線の中解像度システムでしたが、ベルリンやポツダムなどに特別に設けられた公衆テレビ視聴室を通じて、多くの市民がリアルタイムでオリンピックの感動を共有しました。この視聴室を訪れた観客は延べ15万人に達したと記録されています。さらに、これらの公衆テレビ室では、同軸ケーブルを利用してベルリンとライプチヒ間でテレビ電話サービスも提供されるなど、当時の最先端技術が活用されていました。

そして、この年の最も重要な出来事の一つとして挙げられるのが、英国放送協会（BBC）による世界初の高解像度テレビ定時放送の開始です。11月2日、ロンドンのアレクサンドラ・パレスから幕を開けたこの放送は、現在のBBC Oneの礎となるものでした。ここで特筆すべきは、当時「高解像度」とされた200走査線以上のシステムとして、ジョン・ロジー・ベアードが開発した240走査線の機械式テレビジョン方式と、EMI-マルコーニが開発した405走査線の電子式テレビジョン方式という、異なる二つの技術方式が週替わりで使用された点です。

放送された番組内容は多岐にわたりました。10月から試験放送として先行していた時事番組『ピクチャー・ページ』のほか、歌やコメディなどを盛り込んだバラエティ番組『スターライト』、そしてアレクサンドラ・パレスで実際に演じられる舞台を中継する『シアター・パレード』などがありました。放送時間は月曜日から土曜日の週6日、午後の3時から4時までの1時間と、夜の9時から10時までの1時間の、1日計2時間でした。

このように1936年は、アメリカでの電子式技術実験、ドイツでのスポーツイベント中継による大衆への普及、そしてイギリスでの世界初の高解像度定時放送開始と、各国でテレビ放送の形態や技術が多様に発展し、その後の本格的な普及に向けた基盤が固められた記念すべき年と言えます。これらの出来事は、今日のテレビが提供する豊かな情報とエンターテイメントの源流を形成する重要なステップとなりました。

もう一度検索