1938年のグランプリ・シーズン

1938年のグランプリ・シーズンは、AIACRヨーロッパ選手権の第6回大会として開催されました。このシーズンは、幾多のドラマと技術革新が織りなす、記憶に残るものとなりました。

まず、シーズン開幕前の1月には、アウトバーンでの速度記録挑戦中にベルント・ローゼマイヤーが事故死するという悲劇に見舞われます。この事故は、モータースポーツ界に大きな衝撃を与えました。

技術的な面では、750kgフォーミュラに替わる新レギュレーションが施行され、グランプリ参戦マシンの設計に大きな変化が訪れました。従来の大排気量・軽量マシンは姿を消し、新たなフォーミュラに対応したマシン開発が各チームの最重要課題となりました。

メルセデス・ベンツは、この新レギュレーションに対応するため、スーパーチャージャー付き3.0リッターV型12気筒エンジンを搭載した新型マシン、W154を開発しました。このマシンは、圧倒的なパワーと性能を誇り、シーズンの主役となる存在感を示しました。

一方、ローゼマイヤーを失ったアウトウニオンも、メルセデスW154に対抗すべく、スーパーチャージャー付き3.0リッターV型12気筒エンジンを搭載した新型マシン、アウトウニオン・タイプDで参戦しました。しかし、チームの支柱を失ったアウトウニオンはメルセデスに対抗するには至りませんでした。

アルファロメオは、スクーデリア・フェラーリをアルファコルセに吸収合併し、ワークス体制でグランプリに参戦しました。ティーポ308、ティーポ312、ティーポ316と3種類のマシンを開発しましたが、ドイツ勢のメルセデスやアウトウニオンには性能で劣り、競争力を欠きました。エースドライバーのタツィオ・ヌヴォラーリは、シーズン序盤のポーグランプリでリタイアに終わった後、アウトウニオンに移籍するという決断を下しました。

1938年シーズンは、メルセデスが圧倒的な強さで支配しました。雨の悪条件となったスイスグランプリで勝利を収めたルドルフ・カラツィオラが、2年連続でヨーロッパ選手権を制覇しました。カラツィオラは選手権対象レース4戦中1勝という結果でしたが、他のレースでも安定したポイントを獲得し、チャンピオンに輝きました。

アウトウニオンは、ローゼマイヤーの死とエースドライバーの移籍という困難な状況の中、ヌヴォラーリがイタリアグランプリとドニントングランプリで2勝を挙げたものの、メルセデスに太刀打ちすることはできませんでした。

メルセデスチームには、若き英国人ドライバー、リチャード・シーマンが所属していました。彼は、経験豊富なドイツ人ドライバーであるカラツィオラやフォン・ブラウヒッチュを相手に、その速さを証明しました。そして、ニュルブルクリンクで開催されたドイツグランプリで、見事初優勝を飾りました。この勝利は、若き才能の躍進を示す象徴的な出来事となりました。

1938年グランプリシーズンは、メルセデスの圧倒的な勝利、新レギュレーションによる技術革新、そして若手ドライバーの台頭という、様々な要素が絡み合った、記憶に残るシーズンとなりました。同時に、ローゼマイヤーの死という悲劇も、このシーズンの影として存在し続けました。

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