1942年の日本競馬

1942年（昭和17年）の日本競馬界は、太平洋戦争の戦況悪化が運営に大きな影を落とした一年として記憶されています。

戦時下の競馬運営

この年の競馬界で最も大きな出来事の一つは、1月16日に決定され、3月1日に施行された馬券税の導入です。軍事費調達を目的としたこの税金は、勝馬投票券に対し100分の7、払戻金には20円控除後の金額の100分の20が課税されるというものでした。日本競馬会は、税金が戦争遂行のために必要な措置であることなどを告知する放送案文を作成し、入場者への周知徹底を図りました。

しかし、この馬券税の賦課は競馬開催に深刻な影響を与えました。春季競馬の来場者数は前年の6割強にまで落ち込み、売得金も大幅に減少するなど、競馬の根幹を揺るがす事態となりました。理事長は来場者数回復のため、1940年から中止していた競馬開催日の広告再開を指示するなど対策を講じましたが、効果は限定的でした。

戦時下の影響は多岐にわたりました。4月18日にはドーリットル空襲が発生し、中山競馬場や阪神競馬場で開催中に空襲警報が発令されました。これを受けて、日本競馬会は競馬開催時の防空実施要領を定め、万一の事態に備えました。また、空襲などにより競馬が中止・取りやめになった場合の入場料等の扱いについても規定が設けられました。

文化的側面でも変化がありました。8月には、馬名登録において「なるべく国語を使用し、米英語は使用しないこと」との通知が出され、国際色が排除される動きが見られました。さらに、1940年に公布された敵産管理法に基づき、ステーツ・アイザックスやC・H・モースといった外国人所有者の財産処理が進められました。

経営面では、11月に海軍次官より農林次官に対し、川西航空機工場に隣接する阪神競馬場の譲渡要請が出されました。日本競馬会は代替地を探し始め、翌年には移転が決定されることになります。

人材面でも戦時下の影響が出ました。騎手の召集による人手不足に対処するため、12月には調教師が臨時に騎手として騎乗することを認める特例が制定されました。

そのほか、この年には競馬法施行20周年を記念した式典や、『日本の競馬』冊子の配布が行われたほか、函館競馬場では第100次競馬開催を記念した式典や物故功労者追悼式などが挙行されました。

主な競走成績

戦時下においても主要な競走は継続されました。

第10回 帝室御賞典（春）（鳴尾）: ミナミモア
第11回 東京優駿競走（日本ダービー）（東京）: ミナミホマレ
第4回 横濱農林省賞典四歳呼馬（横浜）: アルバイト
第4回 中山四歳牝馬特別（中山）: バンナーゴール
第5回 優駿牝馬（オークス）（鳴尾）: ロツクステーツ
第11回 帝室御賞典（秋）（東京）: ニパトア
第5回 京都農林省賞典四歳呼馬（京都）: ハヤタケ

また、この年新設された京都記念競走の第1回はマルエスが優勝しました。

障害競走

第16回 中山農林省賞典障碍（春）（中山）: ホウカツピータ
* 第17回 中山農林省賞典障碍（秋）（中山）: バイエル

誕生・死去

この年には、後に中央競馬で活躍する大和田稔氏（騎手・調教師）が3月30日に、簗田善則氏（騎手）が4月3日に誕生しています。

1942年は、馬券税の導入による来場者・売得金の激減、戦局悪化に伴う様々な規制や影響により、日本競馬界が困難な局面に直面した一年でした。

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