1945年は、第二次世界大戦の終結という歴史的な出来事と共に、航空分野が激動の変化を遂げた年です。戦争終盤における大規模な航空作戦が展開される一方、終戦を経て、新たな航空技術の開発や民間航空の再開に向けた動きが加速しました。
戦争終盤の航空作戦と悲劇
年の初頭、戦局は連合国優位に進み、各地で大規模な航空作戦が敢行されました。
2月13日、イギリス軍はドイツのドレスデンに対し、激しい爆撃を実施しました。これは都市全体に甚大な被害をもたらしたことで知られています。
そして、3月10日には、アメリカ軍の300機を超えるB-29
爆撃機が日本の首都東京の下町エリアに対し、焼夷弾を用いた大規模な空襲を行いました。この攻撃は「
東京大空襲」と呼ばれ、市街地は炎に包まれ、100万人以上が被災し、8万人を超える命が失われ、4万人以上が負傷するという、極めて大きな被害をもたらしました。
3月14日には、イギリス空軍の精鋭部隊として知られる第617飛行中隊、通称「ダムバスターズ」が、約5トンもの巨大な爆弾「グランドスラム」を使用して、ドイツのビーレフェルトにある重要な鉄道陸橋の構造物を破壊する精密爆撃に成功しました。
日本軍も必死の抵抗を試みます。3月21日には、沖縄への上陸を目指すアメリカ軍の機動部隊に対し、特攻兵器「桜花」を搭載した実戦部隊が九州沖から出撃しました。しかし、目標に到達する遥か手前でアメリカ海軍のF6F戦闘機隊に捕捉され、護衛の陸上攻撃機18機は全機が撃墜されるという悲劇的な結果に終わりました。
戦争の終結と航空機
5月7日、ドイツがフランスのランスにおいて降伏文書に署名し、ヨーロッパにおける戦争は終結しました。
しかし、太平洋戦線では戦闘が続きました。7月28日、
ニューヨーク上空で悪天候の中を飛行していたB-25
爆撃機が、視界不良のため
エンパイア・ステート・ビルディングに衝突するという事故が発生し、14名の犠牲者が出ました。
8月に入ると、戦争の行方を決定づける出来事が連続します。8月6日午前8時15分、アメリカ軍は
広島市に人類史上初めて実戦で原子爆弾を投下しました。そして8月9日午前11時02分、二発目の原子爆弾が
長崎市に投下されました。これらの原子爆弾投下は、都市に壊滅的な被害をもたらしました。
これらの出来事を受けて、8月15日、日本は連合国に降伏し、第二次世界大戦は終結を迎えました。
戦後の航空技術の萌芽
戦争の終結は、破壊に用いられた航空技術を平和利用へと転換させる契機となりました。また、戦時中に研究・開発が進められていた革新的な技術が姿を現し始めます。
8月7日、日本の敗戦直前に、日本海軍は初の国産
ジェット機「橘花」の試験飛行を成功させていました。これは、日本の航空技術者が戦争末期においても高性能な機体開発に取り組んでいた証です。
9月6日には、ドイツから戦利品として接収されたヘリコプター「フォッケウルフ・アハゲリス Fa223 V14」がイギリスへと空輸され、ヘリコプターによる初のドーバー海峡横断が記録されました。
9月20日には、イギリスで実験用に改造された
グロスター ミーティアが、ターボプロップエンジンであるロールスロイス トレントRB.50を搭載して飛行し、イギリス初のターボプロップ航空機となりました。これは、ジェットエンジンとは異なるアプローチで高速化を目指す新たなエンジンの可能性を示しました。
11月に入ると、
ジェット機の能力向上と運用に関する実験が進展します。11月6日、アメリカ海軍のジェットエンジンとレシプロエンジンを組み合わせた複合動力機「ライアンFR」が、護衛空母「ウェーク・アイランド」への着艦に成功しました。これはジェットエンジン搭載機が空母に着艦した初の事例となります。
11月7日には、H. J. Wilson氏が
グロスター ミーティア F Mk4を操縦し、時速975.9キロメートルという新たな速度記録を樹立しました。これは
ジェット機が従来のプロペラ機を凌駕する高速性を実証した出来事です。
12月3日には、イギリスのエリック・ブラウン氏が、
ジェット機「シーバンパイア」でイギリス海軍の航空母艦「オーシャン」への着艦に世界で初めて成功しました。これは、
ジェット機が本格的に航空母艦で運用される時代の幕開けを告げる重要な実験でした。
民間航空の再開と謎
戦争終結に伴い、国際的な航空路線も再開され始めます。10月24日、アメリカ合衆国のアメリカン航空の子会社であるアメリカン・オーバーシーズ航空が、ダグラス C-54輸送機を使用して、
ニューヨークとロンドンを結ぶ陸上機による定期航空便の運航を開始しました。これは、戦後の国際航空交通網の復旧に向けた第一歩となりました。
しかし、この年は未解決の航空事案も発生しています。12月5日、バミューダ諸島付近で、アメリカ海軍の5機の
雷撃機「アヴェンジャー」が訓練飛行中に消息を絶ちました。この事案は、後に「
バミューダトライアングル」として語られる謎めいた出来事の一つとなりました。
1945年は、戦争の終結という歴史の大きな転換点にあり、航空分野においても、悲惨な終末と輝かしい未来への始まりが同時に存在する、極めて印象的な一年でした。戦争によって急速に進歩した航空技術が、平和な時代の空を切り拓き始める重要な時期となったのです。