1948年の日本競馬

1948年（昭和23年）は、終戦から3年を経て、日本の競馬界が大きな変革期を迎えた年として記憶されています。戦後の混乱から立ち上がり、新たな時代へ向けた組織・制度の再構築が進められました。

この年の初め、1月には日本競馬会の安田伊左衛門理事長が任期満了に伴い退任しました。そして3月には競馬の投票方式に大きな変更が加えられます。主務省の認可を得て、従来の連勝複式に加え、6枠の連勝式勝馬投票法が導入され、春季中山競馬から新たな形式での馬券発売が開始されました。また、同じ春季中山競馬からは、競走の着順判定の精度を高めるため、決勝写真が採用されるなど、技術的な進歩も見られました。

組織面では、4月に北海道軽種馬生産農業組合が設立されるなど、競馬を支える生産基盤の整備も進みました。施設面では、4月に浦和競馬場が開場し、競馬開催地の拡大が見られました。また、同時期には多くの地方競馬場（室蘭、小樽、秋田、大館、米沢、足利（旧）、北方、柳井、宇部、鳴門）が新たに開設される一方、富士競馬場が廃止されています。

制度の根幹に関わる動きとして、日本競馬会は5月、控除率の引き下げによる売上拡大を目指す実験的な提案を農林省に行いました。この提案は6月に認められ、第2回東京競馬では一時的に控除率が引き下げられましたが、期待したほどの効果は得られず、わずか4日間で元の控除率に戻されています。

この年は、日本競馬会という組織がその歴史を終え、国営競馬へと移行するプロセスが具体的に進行しました。6月には政府が競馬法案を閣議決定。しかし、同月末には閉鎖機関整理委員会によって日本競馬会などが閉鎖機関に指定されるという決定が一時なされました。この決定は後に無期延期となりますが、7月には新競馬法が公布され、競馬施行体の変更が法的に位置づけられました。政府は日本競馬会の資産と負債を引き継ぐ契約に調印し、解散手続きを進めましたが、この際の手続きの不備が後に「長森裁判」と呼ばれる訴訟に繋がる伏線となりました。

新たな組織体制として、8月には農林省内に競馬部が新設され、国営競馬を管轄する体制が整えられました。また、9月には「国営競馬実施規則」や「競馬事務所委任事務規程」が制定され、国営競馬運営のルールや権限分担が明確化されました。諮問機関として10月には中央に「競馬審議会」、農林大臣の諮問機関として「国営競馬裁定審議会」が設置され、競馬運営に関する専門的な意見が求められるようになりました。

戦時中に接収された阪神競馬場（逆瀬川）の代替地における競馬場建設も進展しました。7月には建設許可のめどが立ち、9月には京阪神競馬株式会社の発起人会が結成され、12月には会社が設立登記を完了し、建設工事に着手しています。一方、GHQの接収から新潟競馬場（関屋）が解除され、7月からは新潟県による県営競馬が開催されるようになりました。

この年の後半には、競馬のあり方を大きく変える重要な制度変更がありました。12月、場外馬券の発売を認める規則改正が公布され、銀座に最初の場外発売所が開設されました。これにより、競馬場に足を運ばなくても馬券を購入できるようになり、競馬の裾野が広がるきっかけとなります。また、競走中の事故に対する保障制度として、国営競馬死傷見舞金交付要綱も制定され、関係者の福祉にも目が向けられました。

主要な競走では、牝馬クラシックの桜花賞をハマカゼが、優駿牝馬（オークス）をヤシマヒメが制しました。牡馬クラシックの優駿競走（日本ダービー）はミハルオー、菊花賞はニユーフオードが優勝。天皇賞は春がシーマー、秋がカツフジの手に渡りました。障害競走の最高峰である中山大障害は、春をフクレイ、秋をブルーホマレが制しています。

この年には、後の日本競馬史に名を刻むことになる多くの競走馬や人物が誕生しました。特に、後に無敗でクラシック三冠を達成するトキノミノル、名騎手として一時代を築く岡部幸雄や福永洋一、多くの名馬を育て上げた調教師たちも、この年に生を受けています。

1948年は、戦後の混乱から脱却し、組織、制度、施設、そして未来を担う人材と、様々な面で近代競馬の基礎が築かれた、まさに日本競馬界の転換点と言える一年でした。

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