1951年の政治

1951年（昭和26年）は、第二次世界大戦後の日本の歴史において、最も重要な節目の一つとなりました。この年、サンフランシスコにおいて対日平和条約が調印され、日本は主権を回復する道筋が開かれたからです。しかし、その道のりは平坦ではなく、国内政治、国際情勢ともに激動の一年となりました。

年明け早々の1月1日、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥は、その年の年頭メッセージで「1951年が講和の年となることを希望する」と表明し、日本の主権回復に向けた期待が高まります。これに応じるかのように、アメリカ合衆国講和特使ジョン・フォスター・ダレスが1月3日に初来日し、日本の指導者たちとの間で講和交渉が本格的に始まりました。ダレス特使は再来日後の1月25日、吉田茂首相に対し、後の講和条約の骨子となる「対日講和7原則」を提示しました。さらに、2月2日には、日米間の集団安全保障体制の構築とアメリカ軍の日本への駐留を含む講和方針が明らかにされ、日本の将来の安全保障のあり方が大きな焦点となっていきました。

こうした講和交渉の進展と並行して、国内の政治情勢も動きを見せます。1月には主要政党の党大会が開催され、日本社会党は委員長に鈴木茂三郎を選出し、自由党は国内治安の強化や警察制度の改革を主張しました。国民民主党は幹事長に三木武夫を選出し、再軍備を明確に主張するなど、各党が戦後日本の進路について議論を深めました。2月10日には社会民主党が結成されるなど、政界再編の動きも見られました。

4月に入ると、戦後日本を指導してきたマッカーサー元帥が、トルーマン大統領によって連合国軍最高司令官を突然罷免されるという歴史的な出来事が起こります。これは、朝鮮戦争を巡る戦略や対ソ・対中政策に関するワシントンとの対立が背景にあったとされています。マッカーサーは離日し、アメリカ議会での演説において「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」という有名な言葉を残しました。後任にはリッジウェイ中将が就任し、日本における占領行政も新たな局面を迎えます。リッジウェイ司令官は占領下諸法令の見直しを指示し、公職追放解除や独占禁止法、労働法などの見直しが具体的に開始されました。

この公職追放解除は、多くの旧指導者や政治家にとって政界復帰の道を拓くものでした。特に、6月には鳩山一郎を含む2958名の解除が決定され、さらに6月末には6万3425名、10月末までには累計で12万0261名の解除が決定されるなど、戦後日本の政治体制の再構築が進みました。公職追放を解除された鳩山一郎らのグループは、今後の政局に向けて活発な動きを見せ始めます。

夏を迎える頃、サンフランシスコでの講和会議開催に向けた準備が加速しました。7月20日にはアメリカ政府から49カ国に対し、サンフランシスコ平和会議への参加招請が行われました。ソ連も8月12日に参加を受諾する回答をしました。日本側では、講和全権団をどのように構成するかが課題となり、吉田首相は超党派での構成を希望しました。与党自由党は野党に協力を求め、特に国民民主党との間で調整が行われ、8月上旬には臨時国会の開会と国民民主党からの全権団参加が正式に決定しました。こうして、8月18日には国会の議決を経て、吉田茂首相を筆頭とする講和全権団の顔ぶれが確定しました。

そして9月4日、サンフランシスコ講和会議が開幕しました。吉田全権は演説を行い、日本の講和条約受諾の意思を表明しました。そして9月8日、第二次世界大戦の終結と日本の主権回復を正式に定めるサンフランシスコ平和条約と、その安全保障面を担う旧日米安全保障条約が調印されました。

条約調印後、国内ではその承認を巡る議論が活発化します。10月に召集された臨時国会では、条約の審議が行われました。特に日本社会党内では、平和条約への賛否と日米安保条約への対応を巡って激しい対立が生じ、10月24日には臨時党大会で党が左右両派に分裂するという事態に至りました。しかし、衆議院、参議院ともに多数の賛成を得て、サンフランシスコ平和条約および日米安全保障条約は承認・批准され、日本の主権回復に向けた最大の難関を突破しました。これに伴い、11月には日米行政協定の交渉も開始され、米軍の日本駐留に関する具体的な取り決めが進められることとなりました。

この年、国内では5月に第2回統一地方選挙が実施され、教育公務員法が成立（6月2日）したほか、日本はユネスコやILOに正式加盟（6月21日）するなど、国際社会への復帰も進みました。また、出入国管理令が公布・実施（10月・11月）されるなど、戦後日本の体制整備が進められました。年末には第13国会が召集され、吉田首相は政権継続の意思を表明し、内閣改造を行いました。GHQは全戦犯の管理を日本政府に移管すると発表し、占領時代の終焉が近いことを印象付けました。

国際的には、朝鮮戦争の休戦会談が7月10日に開始されたことや、リビアがイタリアから独立したこと（12月24日）、イスラエルが「帰還法」「不在者財産法」を制定したことなど、冷戦体制下の国際情勢の変化を示す出来事も発生しました。

1951年は、サンフランシスコ体制が構築され、戦後日本の進路が決定づけられた歴史的に極めて重要な一年でした。講和と安保条約の締結は、その後の日本の政治、経済、社会、そして国際関係に決定的な影響を与えることになります。

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