1954 FIFAワールドカップ・アジア予選

1954年にスイスで開催されたFIFAワールドカップ本大会への出場権を懸け、アジア地区では予選が実施されました。この当時のアジアにはわずか1枠のみが割り当てられており、各国はこの狭き門を突破すべく準備を進めていました。

予選への参加を表明していたのは、韓国、日本、そして中華民国の3チームでした。しかし、大会規定や諸事情により、最終的に中華民国が予選への参加を取りやめることとなります。これにより、本大会出場権をかけた戦いは、韓国代表と日本代表の一騎打ちという図式に集約されました。

この対戦は、単なるスポーツの枠を超えた、非常に特異な背景を持つ予選として歴史に名を刻んでいます。当時、韓国の大統領であった李承晩氏は、政治的な理由から日本代表チームの韓国への入国を認めないという方針を強く打ち出しました。通常、国際試合の予選はホーム・アンド・アウェー方式で行われ、お互いの国で試合を行うのが通例です。

しかし、この大統領の決定により、両国間で予定されていた2試合全てが、日本の首都・東京で行われるという、極めて異例の事態となりました。試合会場には、当時既に主要なスポーツ施設であった明治神宮外苑競技場が使用されました。

まず行われた第1戦は、韓国代表が日本のホーム環境にも動じず、圧倒的な力を見せつけました。試合は韓国ペースで進み、結果は韓国が5対1という大差で日本を下しました。この大勝は、韓国にとってワールドカップ初出場へ向けた大きな一歩となりました。

続く第2戦では、巻き返しを図りたい日本代表も粘りを見せましたが、両チームともにゴールを割ることができず、試合は0対0の引き分けに終わりました。

この2試合の結果、韓国代表は第1戦の勝利と第2戦の引き分けで勝ち点3を獲得し、対する日本代表は1敗1分で勝ち点1に留まりました。これにより、韓国がこのアジア予選グループ13の勝者となり、1954年のFIFAワールドカップ・スイス大会への出場権を見事に獲得しました。

韓国にとって、これは建国以来初めてとなるFIFAワールドカップ本大会への出場であり、その快挙は韓国国内に大きな歓喜をもたらしました。一方、日本にとっては、初のワールドカップ出場は次の機会へと持ち越しとなりました。

この1954年のアジア予選は、単に試合の結果だけでなく、当時の両国を取り巻く国際情勢や政治がスポーツイベントにいかに大きな影響を与えるかを示す象徴的な出来事として、サッカー史において特異な位置を占めています。この予選での対戦は、その後の両国サッカーの発展や、ライバル関係の形成にも少なからぬ影響を与えたと言えるでしょう。

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