1955年の日本の女性史
1955年（昭和30年）は、日本の女性たちにとって、社会進出や権利獲得に向けた多様な動きが見られた節目の年となりました。この年は、特定の思想に基づく体系的な女性史研究としてではなく、当時の日本における女性に関する出来事を時系列でたどる形で振り返ります。
1月から3月
年明け早々、佐賀関精錬所では共働き女性の解雇に反対する労働争議が発生しました。また、全国各地で「母と女教師の会」が開催され、子供たちの教育などを巡る母親と教師の連携が深まりました。国際的な動きとしては、マニラで開かれた第1回国際大学婦人協会アジア地域会議に日本から3名が出席。国内では、主婦連合会などが主催する公明選挙推進の会議が開かれ、有権者としての女性の意識向上を目指しました。
横浜の養老院で発生した火災では、多くの高齢女性が犠牲となる悲劇がありました。一方、女性たちの政治参加を促す集会や、国際婦人デーに合わせた催しも行われました。
文化・社会面では、石垣綾子氏による「主婦第二職業論」の発表が大きな反響を呼び、「主婦論争」が巻き起こりました。専業主婦の役割や家事労働の価値について、多くの知識人や女性たちが議論を交わし、主婦のあり方に関する社会的な意識の変化を促しました。
また、この時期には日本母親大会の準備会が結成され、その後の母親運動へとつながる大きな一歩が踏み出されました。世界母親大会への代表選出を巡るエピソードは、当時の女性運動家たちの価値観や葛藤を示すものとして語り継がれています。宝塚歌劇団が戦後初の海外公演を行ったことや、電電公社（現NTT）による職場の保育所実現に向けた取り組みも、この時期の注目すべき出来事です。
4月から6月
4月には、憲法で保障された基本的人権としての家族像を守る集会や、日本が国連の「婦人参政権に関する条約」に加盟するといった、女性の権利に関わる動きがありました。全日本仏教徒婦人連盟が結成され、宗教の分野での女性の組織化も進みました。大田区で発覚した少女売買事件は、社会の暗部を浮き彫りにしました。
原爆被害を受けた「原爆乙女」たちが治療のために渡米したことは、国際的な支援の広がりを示しました。この頃、文部省が婦人学級の再編成を進め、地域における女性の学習機会が拡大しました。
6月は、日本の女性運動史において特に重要な月となりました。共働き女性の保育ニーズに応える働く母の会による共同保育所の開設、群馬県での産休補助教員制度の導入など、働く母親を支援する具体的な制度づくりが進みました。日本助産婦全国大会では、増加する人工妊娠中絶に対し、母性保護と避妊指導の重要性が確認されました。
そして、第1回日本母親大会が開催され、全国から集まった多くの母親たちが、子供の保護、女性の権利、平和といったテーマで熱心な討議を行いました。同じ時期に主婦連合会主催の新生活推進大会も開かれ、これら二つの大会は、その後の日本の婦人運動の多様な方向性を示すものとなりました。売春防止法の制定を求める運動も活発化し、朝日新聞の読者投稿欄から生まれた「草の実会」のような、市民レベルの新たな女性組織も誕生しました。
7月から9月
7月にはスイスで世界母親大会が開催され、日本からも代表団が参加し、子供たちを戦争の危険から守ることの重要性を訴えました。この大会のスローガンは、その後の日本の母親運動に大きな影響を与えました。地婦連は「人権の尊ばれる家・蚊とハエのいない町・売春のない国」を掲げ、生活環境の改善と売春問題の根絶を訴えました。
この年、日本住宅公団が発足し、ダイニングキッチンの概念が広まるなど、生活様式の変化も進みました。一方、日立造船では扶養手当削減を目的とした産児調節への取り組みが行われました。
8月には、女子教職員の出産支援を定めた産休補助教員設置法が成立し、母子福祉資金貸付法も改正され修学資金が増額されました。広島で開催された第1回原水爆禁止世界大会には多くの女性が参加し、平和への願いを強く訴えました。東京都では母子家庭向けの住宅建設が進められました。
熊本県で発生した「丸吉事件」では、特殊飲食店従業員の契約無効が認められ、実質的な前借金制度に風穴を開けました。札幌市では女性や高齢者への退職勧告が行われるなど、雇用の不安定さも課題となりました。夏には森永ヒ素ミルク中毒事件が発生し、多くの乳幼児が被害にあい、社会問題となりました。
9月には、沖縄でアメリカ軍兵士による少女暴行殺害事件（由美子ちゃん事件）が発生し、基地問題と女性・子供の安全が改めて問われました。京都交通労働組合での女性職員の結婚・妊娠・出産時の退職に関する議論や、農協婦人部の組織強化に向けた話し合いなど、働く女性や農村女性を取り巻く状況も変化しました。
10月から12月
秋には、主婦団体が中心となり、米価引き上げや米の統制撤廃に反対する活動を行いました。最高裁判所は、未成年者の人身売買に関わる前借金契約は無効であるとの画期的な判決を下しました。
働く女性たちのエンパワーメントを目的としたファッションショーが開催されたり、森下仁丹による婦人用体温計や鴨居羊子氏によるカラフルな下着の登場など、女性の健康やファッションに対する意識の変化も見られました。
職場における保育環境整備の動きは続き、全逓信労働組合が託児所を獲得しました。一方、不況や保育政策の遅れにより無認可保育所が増加している実態が報告されました。文部省は全国の優良母子家庭を表彰し、困難を抱える母子家庭への支援の必要性が認識されました。東京地検に更生保護相談室が設置され、困難な状況にある女性たちの再出発を支援する取り組みも始まりました。
年末にかけては、日本レース労働組合での女性従業員による賃上げ闘争や、全国農業協同組合婦人大会の開催など、女性が主体となった組織活動が活発に行われました。うたごえ運動を指導した関鑑子氏がレーニン平和賞を受賞したことは、文化活動を通じた女性の貢献が国際的に認められた出来事です。
経済審議会から「婦人よ家庭に帰れ」という意見が出されるなど、女性の社会進出に対する逆風も存在しましたが、この年は、東芝が炊飯器を発売し家庭電化時代が始まる、若い女性の間でポニーテールが流行する、新聞・雑誌への女性の投書が増えるなど、生活や文化の面でも大きな変化が見られました。また、この年は人工妊娠中絶件数が過去最高を記録し、出生率の低下と相まって、女性の身体と社会のあり方が問われる一年でもありました。
1955年は、働く女性、母親、地域の女性など、多様な立場の人々が声を上げ、組織を作り、権利や生活の改善を求めて行動した、日本の女性運動と社会の変化にとって重要な一年と言えるでしょう。
1月から3月
年明け早々、佐賀関精錬所では共働き女性の解雇に反対する労働争議が発生しました。また、全国各地で「母と女教師の会」が開催され、子供たちの教育などを巡る母親と教師の連携が深まりました。国際的な動きとしては、マニラで開かれた第1回国際大学婦人協会アジア地域会議に日本から3名が出席。国内では、主婦連合会などが主催する公明選挙推進の会議が開かれ、有権者としての女性の意識向上を目指しました。
横浜の養老院で発生した火災では、多くの高齢女性が犠牲となる悲劇がありました。一方、女性たちの政治参加を促す集会や、国際婦人デーに合わせた催しも行われました。
文化・社会面では、石垣綾子氏による「主婦第二職業論」の発表が大きな反響を呼び、「主婦論争」が巻き起こりました。専業主婦の役割や家事労働の価値について、多くの知識人や女性たちが議論を交わし、主婦のあり方に関する社会的な意識の変化を促しました。
また、この時期には日本母親大会の準備会が結成され、その後の母親運動へとつながる大きな一歩が踏み出されました。世界母親大会への代表選出を巡るエピソードは、当時の女性運動家たちの価値観や葛藤を示すものとして語り継がれています。宝塚歌劇団が戦後初の海外公演を行ったことや、電電公社（現NTT）による職場の保育所実現に向けた取り組みも、この時期の注目すべき出来事です。
4月から6月
4月には、憲法で保障された基本的人権としての家族像を守る集会や、日本が国連の「婦人参政権に関する条約」に加盟するといった、女性の権利に関わる動きがありました。全日本仏教徒婦人連盟が結成され、宗教の分野での女性の組織化も進みました。大田区で発覚した少女売買事件は、社会の暗部を浮き彫りにしました。
原爆被害を受けた「原爆乙女」たちが治療のために渡米したことは、国際的な支援の広がりを示しました。この頃、文部省が婦人学級の再編成を進め、地域における女性の学習機会が拡大しました。
6月は、日本の女性運動史において特に重要な月となりました。共働き女性の保育ニーズに応える働く母の会による共同保育所の開設、群馬県での産休補助教員制度の導入など、働く母親を支援する具体的な制度づくりが進みました。日本助産婦全国大会では、増加する人工妊娠中絶に対し、母性保護と避妊指導の重要性が確認されました。
そして、第1回日本母親大会が開催され、全国から集まった多くの母親たちが、子供の保護、女性の権利、平和といったテーマで熱心な討議を行いました。同じ時期に主婦連合会主催の新生活推進大会も開かれ、これら二つの大会は、その後の日本の婦人運動の多様な方向性を示すものとなりました。売春防止法の制定を求める運動も活発化し、朝日新聞の読者投稿欄から生まれた「草の実会」のような、市民レベルの新たな女性組織も誕生しました。
7月から9月
7月にはスイスで世界母親大会が開催され、日本からも代表団が参加し、子供たちを戦争の危険から守ることの重要性を訴えました。この大会のスローガンは、その後の日本の母親運動に大きな影響を与えました。地婦連は「人権の尊ばれる家・蚊とハエのいない町・売春のない国」を掲げ、生活環境の改善と売春問題の根絶を訴えました。
この年、日本住宅公団が発足し、ダイニングキッチンの概念が広まるなど、生活様式の変化も進みました。一方、日立造船では扶養手当削減を目的とした産児調節への取り組みが行われました。
8月には、女子教職員の出産支援を定めた産休補助教員設置法が成立し、母子福祉資金貸付法も改正され修学資金が増額されました。広島で開催された第1回原水爆禁止世界大会には多くの女性が参加し、平和への願いを強く訴えました。東京都では母子家庭向けの住宅建設が進められました。
熊本県で発生した「丸吉事件」では、特殊飲食店従業員の契約無効が認められ、実質的な前借金制度に風穴を開けました。札幌市では女性や高齢者への退職勧告が行われるなど、雇用の不安定さも課題となりました。夏には森永ヒ素ミルク中毒事件が発生し、多くの乳幼児が被害にあい、社会問題となりました。
9月には、沖縄でアメリカ軍兵士による少女暴行殺害事件（由美子ちゃん事件）が発生し、基地問題と女性・子供の安全が改めて問われました。京都交通労働組合での女性職員の結婚・妊娠・出産時の退職に関する議論や、農協婦人部の組織強化に向けた話し合いなど、働く女性や農村女性を取り巻く状況も変化しました。
10月から12月
秋には、主婦団体が中心となり、米価引き上げや米の統制撤廃に反対する活動を行いました。最高裁判所は、未成年者の人身売買に関わる前借金契約は無効であるとの画期的な判決を下しました。
働く女性たちのエンパワーメントを目的としたファッションショーが開催されたり、森下仁丹による婦人用体温計や鴨居羊子氏によるカラフルな下着の登場など、女性の健康やファッションに対する意識の変化も見られました。
職場における保育環境整備の動きは続き、全逓信労働組合が託児所を獲得しました。一方、不況や保育政策の遅れにより無認可保育所が増加している実態が報告されました。文部省は全国の優良母子家庭を表彰し、困難を抱える母子家庭への支援の必要性が認識されました。東京地検に更生保護相談室が設置され、困難な状況にある女性たちの再出発を支援する取り組みも始まりました。
年末にかけては、日本レース労働組合での女性従業員による賃上げ闘争や、全国農業協同組合婦人大会の開催など、女性が主体となった組織活動が活発に行われました。うたごえ運動を指導した関鑑子氏がレーニン平和賞を受賞したことは、文化活動を通じた女性の貢献が国際的に認められた出来事です。
経済審議会から「婦人よ家庭に帰れ」という意見が出されるなど、女性の社会進出に対する逆風も存在しましたが、この年は、東芝が炊飯器を発売し家庭電化時代が始まる、若い女性の間でポニーテールが流行する、新聞・雑誌への女性の投書が増えるなど、生活や文化の面でも大きな変化が見られました。また、この年は人工妊娠中絶件数が過去最高を記録し、出生率の低下と相まって、女性の身体と社会のあり方が問われる一年でもありました。
1955年は、働く女性、母親、地域の女性など、多様な立場の人々が声を上げ、組織を作り、権利や生活の改善を求めて行動した、日本の女性運動と社会の変化にとって重要な一年と言えるでしょう。
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