由美子ちゃん事件

由美子ちゃん事件とは

由美子ちゃん事件は、1955年9月3日に沖縄本島の嘉手納村（現：嘉手納町）で発生した、当時5歳の永山由美子ちゃんがアメリカ軍曹アイザック・ジャクソン・ハートによって暴行・殺害された痛ましい事件です。この事件は、沖縄がアメリカの占領下にあった時代に起こり、沖縄の戦後史における最も凶悪な事件の一つとして深く刻まれています。

事件の背景

事件当時、沖縄では米軍による土地の強制接収が進められており、それに対する住民の抗議運動「島ぐるみ闘争」が激化していました。このような状況下で発生した由美子ちゃん事件は、米軍人による犯罪に対する沖縄住民の怒りを爆発させ、各地で大規模な抗議集会が開催されました。

この事件は、米軍人・軍属による犯罪が大きく取り上げられ、米軍当局への批判が高まった最初の事例とされています。21世紀に入ってもなお、沖縄における米軍犯罪の象徴的な出来事として、1995年の沖縄米兵少女暴行事件や、2016年のうるま市女性殺害事件などとともに語られることが多いです。

事件の経緯

加害者：アイザック・ジャクソン・ハート

加害者であるアイザック・ジャクソン・ハートは、1924年生まれのアメリカ人で、事件当時31歳でした。彼は過去に性的暴行未遂と暴行で11ヶ月間収監された経歴がありましたが、それを隠して海軍に入隊し、第二次世界大戦に従軍しました。その後、陸軍に再入隊し、嘉手納基地に所属していた軍曹でした。

事件発生

被害者の永山由美子ちゃんは、石川幼稚園に通う愛らしい園児でした。1955年9月3日、エイサー見物に出かけたまま帰宅せず、父親が警察に捜索願を提出しました。翌日、由美子ちゃんの遺体が、嘉手納基地近くの採石場跡で発見されました。遺体には暴行の痕跡があり、下腹部から肛門にかけて刃物で切り裂かれたような傷痕が見られました。

捜査

発見当初、遺体発見現場は米軍用地であったため、琉球警察は現場への立ち入りを許可されませんでした。しかし、最終的には琉球警察と米軍の合同捜査が行われました。目撃者の証言から、由美子ちゃんが白人に拉致されたこと、犯人が「赤ら顔でランニングシャツを着ていた」ことなどが判明しました。また、犯人が使用したと思われるハイヤーが特定され、ハートが容疑者として浮上しました。

逮捕

事件発生から3日後、ハートは逮捕されました。ハートの車からは血痕や血のついたタオルなどが発見され、犯行を裏付ける証拠となりました。しかし、ハートは犯行を否認し続けました。

沖縄住民の反応

事件当初、沖縄住民の間では被害者両親の監督責任を問う声も上がりましたが、米軍によるハート逮捕が発表されると、米軍人による犯罪に対する怒りが爆発しました。沖縄の人々は、米軍統治下における軍法会議が、沖縄人を無視した形で行われていることに強い不満を抱いていました。

由美子ちゃん事件を契機に、「沖縄人に関わる外人事件の裁判は全て公開せよ」という世論が高まり、琉球政府は米軍当局に軍規粛正を求めました。また、沖縄県議会は本事件を「鬼畜にも劣る残虐な行為」と非難しました。

さらに、事件の6日後には、別の米兵による少女強姦事件が発生し、沖縄住民の怒りはさらに増大しました。これらの事件は、沖縄の「祖国復帰闘争」に大きな影響を与えました。

軍法会議と死刑判決

沖縄の世論の高まりを受け、米軍当局はハートを起訴し、軍法会議が開かれました。裁判の結果、ハートは殺人・強姦・少女誘拐の罪で有罪となり、死刑判決が宣告されました。

しかし、ハートは犯行を自白せず、証拠とされた毛髪の鑑定結果も、被害者とハートを結びつける決定的なものではありませんでした。そのため、裁判の公平性には疑問の声も上がりました。

大統領令による減刑

ハートは死刑判決を受けましたが、彼の家族や退役軍人会は「ハートは沖縄人の反米感情の犠牲になった」と主張し、減刑を求めました。その結果、アイゼンハワー大統領は1960年にハートを死刑から重労働45年に減刑しました。その後、1971年にはフォード大統領によって仮釈放が認められ、ハートは1984年に亡くなりました。

後年の評価

由美子ちゃん事件は、沖縄の基地問題と深く結びついて語り継がれています。米軍人による犯罪に対する沖縄住民の怒りは、1995年の沖縄米兵少女暴行事件や、2016年のうるま市女性殺害事件など、後年に発生した事件においても繰り返されています。

また、本事件における加害者家族の「沖縄の反米感情」を根拠とした減刑要求や、軍法会議の不透明性は、性犯罪を犯した米軍人からの「暴行しても訴えられる可能性は低い」という主張に繋がっており、沖縄における米軍の犯罪問題を考える上で重要な示唆を与えています。

結論

由美子ちゃん事件は、沖縄の戦後史において決して忘れてはならない悲劇です。この事件は、米軍による占領下における人権侵害や、沖縄の人々の苦悩を象徴する出来事として、後世に語り継がれるべきでしょう。事件を風化させることなく、平和で公正な社会の実現を目指すことが、私たちに課せられた責任であると言えるでしょう。

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