1956年の日本競馬

1956年の日本競馬界

1956年（昭和31年）は、日本の競馬界にとって変革と近代化が推し進められた一年でした。特に、ファンの熱意が形となった画期的な競走の創設と、老朽化した競馬場施設の刷新に向けた取り組みが大きな注目を集めました。

画期的なレース「中山グランプリ」の誕生

この年の最も重要な出来事の一つとして挙げられるのが、年末の中山競馬場で創設された「中山グランプリ」です。これは、当時の日本中央競馬会理事長であった有馬頼寧氏の「国民にもっと競馬に親しんでもらいたい」という強い思いから構想された競走でした。最大の特徴は、出走馬の一部をファンの直接投票によって選出するという、競馬先進国でも類を見ない斬新な形式を採用した点にあります。この発表は競馬ファンの間で大きな反響を呼び、多くの投票が寄せられました。後の「有馬記念」へと繋がるこのファン投票によるオールスターレースの誕生は、競馬のエンターテインメント性を高め、多くの人々を惹きつけるきっかけとなりました。記念すべき第1回競走は12月23日に中山競馬場の芝2600メートルで行われ、この年の天皇賞（春）も制したメイヂヒカリが初代優勝馬に輝いています。

有馬特例法と競馬場施設の近代化

前年12月に公布された「日本中央競馬会の国庫納付金等の臨時特例に関する法律」、通称「有馬特例法」がこの年から施行されました。この法律に基づき、1956年から翌年にかけて臨時競馬が開催され、その収益金は競馬場の老朽化が進んでいた施設の近代化資金として活用されることになりました。実際、3月に開催された第1回臨時競馬では約8億3千万円、10月から11月にかけての第2回では約10億5千万円の売上を記録し、これらの収益が中山競馬場のスタンド改築工事などに充てられました。これにより、より快適で安全な競馬観戦環境の整備が進められました。

その他の主な動き

1956年には、競馬界の様々な側面で変化が見られました。

メディア展開: 4月からはラジオ東京テレビ（現在のTBSテレビ）による中央競馬の実況中継および競馬案内放送が開始され、メディアを通じて競馬に触れる機会が増加しました。10月には日本短波放送（現在のラジオNIKKEI）も中央競馬の実況・放送を開始しています。
安全対策の議論: 6月の東京優駿で発生した競走中の落馬事故（エンメイ、阿部正太郎騎手）は、競馬界に衝撃を与えました。この事故を契機に、日本中央競馬会は関係者による事故調査委員会を組織。出走頭数の制限、パトロールフィルムの導入検討、騎手の倫理向上、そして人馬の救護体制確立といった、競馬の安全性向上に向けた重要な議論が行われ、その後の改善へと繋がりました。
* 施設の拡充と合理化: 9月には東京都中央区銀座に中央競馬サービスセンターが開設され、ファンサービスの拠点が設けられました。南関東競馬では、単勝専用の馬券発売表示機（トーター）が導入され、馬券発売方法の近代化も進みました。一方で、経営状況などから中央競馬の北海道開催（札幌・函館）がこの年中止されたほか、福島県の郡山競馬場、長野県の松本競馬場、京都府の京都長岡競馬場、福岡県の八幡競馬場、鹿児島県の鹿児島競馬場が廃止されるなど、地方競馬における合理化や規模縮小の動きも見られました。

主要競走の結果と表彰

この年のクラシック競走では、牝馬三冠の一冠目・桜花賞をミスリラ、皐月賞をヘキラク、優駿牝馬（オークス）をフエアマンナ、東京優駿（日本ダービー）をハクチカラ、そして菊花賞をキタノオーが制しました。天皇賞は春をメイヂヒカリが、秋をミツドフアームがそれぞれ優勝。そして前述の通り、創設された中山グランプリの初代覇者はメイヂヒカリでした。障害競走の最高峰である中山大障害（秋）はハクレイが勝利しています。

また、啓衆社賞による年度表彰も行われ、年度代表馬には天皇賞（春）と中山グランプリを制したメイヂヒカリが選ばれました。各部門では、最良3歳牡馬にライジングウイナー、最良3歳牝馬にミスオンワード、最良4歳牡馬にキタノオー、最良4歳牝馬にフエアマンナなどが輝いています。

この年には、ウイルデイールといった後の名馬や、的場文男騎手など競馬界で名を馳せることになる多くの人物が誕生しています。1956年は、施設の改善、ファンサービスの向上、そして新たな競走の誕生など、日本競馬がより発展していくための重要な礎が築かれた年と言えるでしょう。

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