1956年イタリアグランプリ

1956年9月2日、イタリア・モンツァ・サーキット。F1世界選手権最終戦、1956年イタリアグランプリが開催されました。このレースは「ヨーロッパグランプリ」の称号もかけられており、世界中の注目を集めていました。

当時、ドライバーズチャンピオンシップはフェラーリのファン・マヌエル・ファンジオと、コリンズの2人に絞られていました。ファンジオは30点、コリンズは22点で、コリンズがチャンピオンになるには優勝し、かつファンジオが無得点に終わる必要がありました。そのため、ファンジオが圧倒的に有利な状況でした。同じ22点を獲得していたジャン・ベーラは、1956年のポイントシステム（ベスト5戦の成績のみ有効）により、チャンピオンシップ争いから脱落していました。

レースは、ロードコースとオーバルコースを組み合わせた複合コースで行われ、荒れた路面がドライバーとマシンに大きな負担を課しました。予選では、ファンジオ、エウジェニオ・カステロッティ、ルイジ・ムッソのフェラーリ勢がフロントローを独占する好位置を獲得しました。

決勝レースは、カステロッティとムッソが好スタートを切り、トップを争いました。しかし、レース序盤でムッソはタイヤトラブルによりピットインを余儀なくされ後退。カステロッティもタイヤバーストによりスピン、リタイアという結果に終わってしまいました。

その後は、スターリング・モス、ファンジオ、ハリー・シェル、コリンズがトップ争いを繰り広げました。しかし、ファンジオはステアリング故障でピットイン、シェルもマシントラブルによりリタイア。モスが独走態勢に入ります。一方、ムッソはタイヤ交換と給油のために2度目のピットインを行いましたが、チームからのファンジオとの交代要請を拒否し、コースに戻りました。

その後、コリンズもピットインしますが、そこでうなだれているファンジオの姿を発見します。そして、コリンズは驚きの行動に出ました。彼は自らのチャンピオン獲得の可能性を捨て、ファンジオにマシンを譲ったのです。この瞬間、コリンズはチャンピオン獲得のチャンスを自ら放棄し、チームメイトであるファンジオを優先することを選択しました。ファンジオは笑顔を取り戻し、3位でコースに復帰しました。

トップを走っていたモスは、45周目にガス欠に見舞われ、スローダウン。しかし、同じマセラティに乗るルイジ・ピオッティ（プライベート参戦）の助けにより、ピットまで戻ることができました。モスの給油が終わると、ムッソが首位に躍り出ますが、残り3周でステアリングが壊れてスピン、リタイアとなってしまいました。

こうして、モスが再びトップに立ち、そのままチェッカーフラッグを受けました。コリンズからマシンを譲られたファンジオは2位でフィニッシュ。3年連続4回目のチャンピオンに輝きました。コリンズは、なぜチャンピオンシップ争いを放棄したのかという問いに対して、「まだ若いし、これからもチャンスはある。ファンジオこそが今年の王者の称号にふさわしい」と答えたと伝えられています。

このレースで、コンノートのロン・フロックハートが3位に入賞し、ドライバーとチームにとって初の表彰台を獲得しました。また、ゴルディーニは資金難のため、1950年以来のF1参戦に終止符を打ちました。

この1956年イタリアグランプリは、マシントラブルやアクシデント、そしてコリンズのスポーツマンシップあふれる行動など、数々のドラマが詰まった、忘れられないレースとしてF1の歴史に刻まれました。

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