1958年の航空

1958年は、世界の航空史において極めて重要な転換期となりました。ジェット旅客機の本格的な運航が始まり、航空技術は新たな次元へと到達しました。同時に、宇宙開発競争も白熱し、人工衛星の打ち上げが相次いだこともこの年の大きな特徴です。

日本の航空界では、この年の1月に国産初の実用ジェット機となるT-1練習機が初飛行を遂げました。これは日本の航空技術再興を示す象徴的な出来事でした。また、民間航空においては3月に全日本空輸と極東航空が合併し、国内航空網の整備が進められました。安全保障面では、航空自衛隊に日本初となる航空救難部隊、臨時救難航空隊が浜松基地に新設され、救難体制の基盤が築かれました。

国際的な航空開発においては、新型機の登場が目立ちました。4月にはタンデムローター式のヘリコプター、ボーイング・バートル107が空へ舞い上がり、同月には英国のデ・ハビランド コメットの改良型であるコメット4が飛び立ちました。このコメット4は10月、ロンドンからニューヨークへのジェット機による最初の大西洋横断商業飛行を成功させ、ジェット旅客機時代の到来を強く印象づけました。アメリカからも、パンアメリカン航空が10月にボーイング707によるニューヨーク・パリ間の商業運航を開始し、大型ジェット旅客機による国際線が現実のものとなりました。また、後に世界中で活躍するダグラスDC-8もこの年5月にその姿を現し、初飛行を行っています。

技術的な進歩は、高高度飛行や速度記録の更新という形でも現れました。グラマンF11F タイガー、フランスのSNCASO トリダン、そして特にロッキードF-104スターファイターといった機体が、次々と最高高度や最高速度の記録を塗り替えました。F-104は5月には2,259.5 km/hという当時の驚異的な速度を記録しています。ヘリコプターも進化し、ジャン・ブーレ操縦のSE 3150 Alouetteがヘリコプターとしての高高度飛行記録を樹立しました。また、イギリスで開発中の垂直離着陸実験機ショートSC.1が初飛行したことは、未来の航空機開発における重要な一歩となりました。

この年は、航空を取り巻く組織にも大きな変化がありました。アメリカでは、航空諮問委員会（NACA）が改組され、宇宙開発も視野に入れたアメリカ航空宇宙局（NASA）が新たに設立されました。同時に、民間航空の安全を管轄する連邦航空局（FAA）も設置され、航空管制や安全基準に関する体制が強化されました。東ドイツでは国営航空会社インターフルクが誕生し、国内開発の旅客機バーデ152も初飛行するなど、各国が独自に航空産業を発展させようとする動きも見られました。

国際的な緊張も航空の分野に影響を与えました。9月には台湾海峡で、中華民国空軍のF-86F戦闘機が、アメリカ製空対空ミサイルであるAIM-9サイドワインダーを使用して中国人民解放軍のMiG-17Fを撃墜しました。これは空対空ミサイルが実戦で航空機を撃墜した初めての記録となり、その後の空中戦のあり方を大きく変える出来事でした。また、中華人民共和国自身も、この年に自国で設計した初の旅客機「北京-1」を初飛行させています。

空港の整備も進みました。6月にはロンドンのガトウィック空港が正式に開港し、増大する航空需要に応える体制が構築されました。日本の東京国際空港（羽田）も、この年6月に連合軍による共同管理から日本への全面返還が実現し、戦後の管理体制に終止符が打たれました。

しかし、航空事故も発生しています。8月には全日空のDC-3型機が下田市沖に墜落し、乗員乗客33名全員が犠牲となる悲劇が起きました。

この年、航空界に貢献した人々には様々な賞が贈られました。ハーモン・トロフィーにはアンドレ・トゥルカ、FAI・ゴールド・エア・メダルにはアンドレーイ・トゥーポレフ、デラボー賞にはウォルター・アーウィンなどが名を連ねています。

1958年は、ジェット時代、宇宙時代、ミサイル時代の幕開けが重なり、航空技術と産業が飛躍的に発展し、組織体制も大きく変わった、まさに変革の年であったと言えるでしょう。

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