1962年のテレビ (日本)

1962年のテレビジョン放送：拡大と多様化が進んだ転換点

1962年（昭和37年）は、日本のテレビジョン放送がそのネットワークを全国に広げ、番組内容も多様化・充実していく上で、極めて重要な一年となりました。

まず、放送網の拡大という点では、公共放送であるNHKの教育テレビが、地方都市を中心に積極的な開局を進めました。この年だけで、実に20局ものNHK教育テレビ局が新たに放送を開始し、都市部のみならず地方における教育放送のアクセス環境が飛躍的に向上しました。これと並行して、民間のテレビ局も新たに誕生しています。名古屋放送（現・名古屋テレビ放送）、広島テレビ放送、仙台放送が開局し、それぞれ東海地方で3局目、広島県、宮城県で2局目の民放テレビ局となりました。これらの局は全てテレビ単営局としてスタートし、各地域でのテレビチャンネルの選択肢を増やしました。こうした動きの結果、テレビ受信契約者数はこの年の3月にはついに1000万件を突破し、テレビの普及率が48.5%に達するなど、テレビが国民にとってより身近な存在になったことを示しています。また、NHKの受信料制度も、テレビ・ラジオ両方所有する契約とラジオのみの契約に区分されるなど、普及状況に応じた変更が行われました。

カラー放送への移行もこの年から具体的な進展を見せ始めました。日本電信電話公社（電電公社）によって整備が進められていたテレビ中継用のマイクロ波回線のうち、東京と大阪を結ぶ主要な下りルートの一部が、カラー信号の伝送に対応する高規格化を完了しました。特に、東京から北陸を経て大阪に至る区間が整備され、東京発のカラー番組が大阪のNHK大阪放送局や読売テレビへ同時伝送されることが可能になりました。さらに、この回線の開通は地方にも恩恵をもたらし、7月には富山、石川、福井の北陸3県のNHK総合テレビジョンと、北日本放送、北陸放送、福井放送の民放3局が、地方局としては初めてカラー放送を開始するという歴史的な出来事がありました。

番組内容の面でも、今日のテレビ文化につながる様々な試みが始まりました。料理番組の金字塔として現在も放送が続く『キユーピー3分クッキング』（中部日本放送制作）がこの年の12月にスタートしました。また、10月には日本で初めて本格的なキャスター制を導入したニュース番組であるTBS系の『JNNニュースコープ』が開始され、日本のニュース番組のスタイルに大きな変革をもたらしました。その他にも、テレビドキュメンタリーの草分け的存在である日本テレビの『ノンフィクション劇場』、TBS系の人気コメディ時代劇『てなもんや三度笠』、ザ・ドリフターズを人気者とするきっかけの一つとなった日本テレビ系のオーディション番組『味の素ホイホイ・ミュージック・スクール』など、後々まで語り継がれる番組が多数誕生しました。NHKの連続テレビ小説も第2作『あしたの風』が始まり、現在の午前8時台、週6日放送というスタイルに近い形になりました。一方で、社会的な影響を与えた出来事もありました。日本テレビで放送されていたプロレス中継において、試合中の流血シーンを見た視聴者がショック死するという事故が発生し、これを受けて同局はカラー放送の一時自粛や流血・場外乱闘シーンの扱いに関する配慮を行うこととなりました。

放送業界を取り巻く環境にも変化がありました。元NHKアナウンサーの高橋圭三が日本初のフリーアナウンサーとして活動を開始し、新たなキャリアパスを示しました。また、テレビ番組表を中心とした日本初のテレビ専門誌『週刊TVガイド』が創刊され、視聴者と番組をつなぐ重要なメディアとなりました。視聴率調査の分野では、ビデオリサーチが設立され、東京23区を対象に機械式視聴率調査を開始するなど、番組評価の客観的な指標作りが進められました。さらに、NHK総合テレビジョンがこの年から全日放送を開始し、一日を通していつでもテレビが見られる環境が整いました。国際的な交流も進み、日本テレビがフランス国営放送と番組交換協定を結ぶなど、海外の放送局との連携も始まりました。

1962年は、テレビ放送が量的拡大期を迎え、質的な向上、すなわちカラー化や番組内容の多様化・専門化が進んだ、日本のテレビ史における重要な節目と言えるでしょう。新たな局の誕生、ネットワークの拡充、そして多くの象徴的な番組のスタートは、その後のテレビ文化の発展の礎を築くこととなりました。

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