1964年のテレビ (日本)

1964年（昭和39年）のテレビ放送

1964年（昭和39年）は、日本のテレビ放送にとって画期的な一年でした。最大の出来事は、10月に開催された東京オリンピックです。この国際的な祭典を放送するために、NHKと民放各局が協力体制を敷き、最新の放送技術が導入されました。特に注目すべきは、静止衛星を利用した米国へのオリンピック映像のテレビ衛星生中継で、これは日本のテレビ史上初の試みであり、「テレビオリンピック」と呼ばれるほど技術的な進歩が顕著でした。

東京オリンピックの開催に合わせ、カラー放送の本格的な普及が進んだこともこの年の大きな特徴です。大会をカラーで楽しむというニーズに応えるため、電電公社（現在のNTT）はオリンピック開催の1～2週間前までに、テレビネット回線のカラー対応化を大幅に前進させました。これにより、NHKの総合テレビでは多数の地方局がカラー放送を開始しました。民放でも、フジテレビや関西テレビをはじめ、名古屋、甲信越、宮城、四国など、多くの地方局が相次いでカラー放送を開始しました。これにより、視聴者にとってテレビはさらに豊かな色彩を帯びたメディアへと変化していったのです。年末には、「NHK紅白歌合戦」もこの年からカラー放送となり、色彩豊かな年末の風物詩として定着していきます。

新たな放送局も誕生しました。4月12日には、日本科学技術振興財団テレビ事業本部（東京12チャンネル、現在のテレビ東京）が開局。当初は科学技術教育専門の局でしたが、その後の変遷を経て現在の総合編成局へと発展していきます。また、この年には、既存局のネット系列変更もありました。テレビ西日本（TNC）が日本テレビ系列からフジテレビ系列へネットチェンジし、これにより九州朝日放送（KBC）はNETテレビ（現在のテレビ朝日）のフルネット局となりました。一方、福岡県など九州の一部地域では、新たな日本テレビ系列局が開局するまでの約4年半、日本テレビ系列の番組が他の系列局で放送されるという状況が生まれました。

災害報道においても、テレビの役割が注目されたのがこの年です。6月16日に発生した新潟地震では、日本のテレビ放送史上初となる大規模な災害報道が行われました。特に地元唯一の民放テレビ局であった新潟放送（BSN）テレビは、津波の模様を世界で初めてテレビで生中継し、同時にVTRに記録しました。この映像は後にJNN系列などを通じて全国に放送され、災害の悲惨さを多くの人々に伝えました。被災地からの映像伝送は、回線の寸断など困難を伴いましたが、各局や電電公社の努力により全国への報道が実現しました。また、各局から応援が駆けつけ、被災地の放送体制を支えました。

テレビ番組のラインナップも充実しました。NHKでは、1月に放送を開始した大河ドラマ第2作『赤穂浪士』から、1月から1年間通しての放送スタイルが確立されました。また、カラー放送の連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』が放送を開始し、子供たちの人気を集めました。この年は、後に長く続く人気番組が複数誕生したことも特筆されます。フジテレビでは音楽番組『ミュージックフェア』、NETテレビ（現在のテレビ朝日）では平日朝のワイドショーの草分けとなる『モーニングショー』がスタートしました。東京12チャンネルで始まったクラシック音楽番組『ゴールデンポップスコンサート・題名のない音楽会』も、後にNETテレビへ移籍し、長寿番組となりました。

個別の番組関連の出来事としては、1月にNHKがイタリア歌劇団公演のカラーVTRを放送したこと（NHKにとって最初のカラーVTR収録）、フジテレビ系で『新春スターかくし芸大会』が始まったこと、日本テレビ系『日本プロレス中継』が約1年9ヶ月ぶりにカラー放送を再開したことなどがあります。これは、過去の流血事故による視聴者への影響を考慮し、カラー放送を自粛していたものが解除されたものです。また、東海テレビ制作による昼の帯ドラマ枠もこの年に始まり、50年以上にわたり続くことになります。

視聴率で見ると、東京オリンピック関連番組が上位を占めました。開会式は61.2%（関東地区、ビデオリサーチ調べ）を記録し、特にバレーボール女子決勝「日本対ソ連」（「東洋の魔女」が金メダルを獲得）は、最高視聴率85%を記録したとされています。NHK紅白歌合戦も72.0%と高い視聴率を維持しました。

このほか、日本テレビの生田スタジオが完成したこと、NHK会長が交代したこと、俳優の佐田啓二氏が事故で死去したことなど、様々な出来事がありました。1964年は、東京オリンピックとカラー化を軸に、日本のテレビ放送が技術的にも番組内容においても大きく進歩し、社会への影響力を強固にした一年と言えるでしょう。

（参考文献：NHK年鑑、放送五十年史、各種テレビドラマデータベースなど）

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