1968年モナコグランプリ

1968年モナコグランプリ：安全対策強化と悲劇の影

1968年5月26日、モナコ市街地コースで開催されたモナコグランプリは、F1史に刻まれた重要な一戦となりました。このレースは、安全対策の強化と革新的な技術、そして大きな悲劇が絡み合う、ドラマチックな展開を見せたのです。

安全対策の強化と欠場

前年、ロレンツォ・バンディーニの事故死を受け、コースの安全対策強化が急務となりました。港のシケインはタイト化され、レース周回数は従来の100周から80周に短縮されました。フェラーリは、安全対策が不十分と判断し、このレースへの参戦を辞退するという決断を下しました。

さらに、フランス国内の政治不安を受け、レース主催者は万が一の停電に備え、地元の映画製作会社から発電機を借り入れるという対策を取ったほど、このレースを取り巻く状況は緊迫していました。

新技術の導入とドライバーたちの挑戦

このレースは、F1マシンにおける空力デバイスの新たな時代を切り開くことにもなりました。ロータスは、グラハム・ヒルを擁し、ノーズウイングとエアダムを備えた革新的なマシン「49B」を投入しました。これはF1マシンにウイングが装着された最初のレースであり、空力性能向上への道を切り開く、重要な一歩となりました。この49Bは、後に1968年シーズンを通して空力デバイスの開発競争を加速させるきっかけとなります。

一方、ドライバーたちはそれぞれの事情を抱えてモナコに集まりました。マトラ・インターナショナルのジャッキー・スチュワートは、右手の骨折からの回復途中であり、ジョニー・セルボ＝ギャバンが代役を務めました。BRMは、クリス・アーウィンがニュルブルクリンク1000kmレースでの事故で負傷したため、リチャード・アトウッドを起用しました。アトウッドにとってはBRM移籍初戦であり、大きな注目を集めました。クーパーは、スペイングランプリで好成績を残したブライアン・レッドマンが別のレースに出場するため、ルシアン・ビアンキを起用しました。マクラーレンのデニス・ハルムは、モナコとインディ500の両方に参戦するという過酷なスケジュールをこなしました。

予選と決勝レースの展開

予選では、グラハム・ヒルがポールポジションを獲得。セルボ＝ギャバンが2番手につけるなど、激しい争いが繰り広げられました。決勝レースは、セルボ＝ギャバンが一時的にリードを奪うも、ドライブシャフトの破損によりリタイア。ヒルがトップに立ち、その後は、サーティースのマシン故障など、様々なアクシデントが発生し、最終的には僅か5台しか完走できませんでした。

ヒルは、卓越したドライビングスキルで優勝を飾りました。この勝利で、ヒルは「ミスター・モナコ」の称号を不動のものとしました。2位にはアトウッドが入り、キャリア唯一の表彰台を獲得。3位はビアンキが入り、彼にとってもキャリア唯一の表彰台となりました。アトウッドは、このレースでキャリア唯一のファステストラップも記録しています。

悲劇の影

このレースの余韻は、喜びだけでなく、深い悲しみも伴いました。4位でフィニッシュしたルドヴィコ・スカルフィオッティは、レースからわずか2週間後にヒルクライムレースで事故死。この事故により、4月のジム・クラーク、5月のマイク・スペンスに続き、3ヶ月連続でF1ドライバーが亡くなるという、F1界にとって非常に暗い影が落とされました。

1968年モナコグランプリは、技術革新と安全対策の重要性を浮き彫りにしたレースであると同時に、モータースポーツ界の危険性を改めて認識させる、悲しい出来事が発生したレースでもありました。このレースは、勝利と悲劇が複雑に絡み合った、F1の歴史における重要な一ページとして記憶されています。

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