1972年のロードレース世界選手権

1972年FIMロードレース世界選手権：激動のシーズンとヤマハの躍進

1972年のロードレース世界選手権は、4月にドイツのニュルブルクリンクで開幕し、スペインGPで幕を閉じました。この年は、北アイルランド紛争の影響によりアルスターGPがカレンダーから外れたため、全13戦で争われました。長きに渡り開催されてきた伝統のレースでしたが、安全性の懸念から、世界選手権からは姿を消すこととなりました。

このシーズン、特に注目を集めたのはヤマハの活躍です。既に市販車市場で成功を収めていたヤマハは、250ccと350ccクラスにワークスマシンを投入。ロドニー・ゴウルドやケント・アンダーソンといったライダーを擁し、日本から金谷秀夫選手も参戦させました。翌年には、これらのマシンをベースにしたTZシリーズが市販されることとなります。さらに、ヤマハは500ccクラスへの本格参戦に向けて、水冷4気筒のYZR500の開発を進めていました。

しかし、ヤマハは伝統のマン島TTレースには不参加でした。危険なコース状況と、近年起こった数々の事故が敬遠の理由です。1970年にはスペイン人ライダーの死亡事故を受け、スペインは自国ライダーの出場を禁止。1972年には、ジルベルト・パロッティ選手が事故死するという悲劇が起きました。この事故を契機に、アゴスチーニを始めとする多くのトップライダーがマン島TTへの出場を拒否。結果、1977年にはロードレース世界選手権のカレンダーからマン島TTは姿を消すことになります。

500ccクラスでは、MVアグスタのアゴスチーニが圧倒的な強さで7連覇を達成しました。唯一の敗北はマシントラブルに見舞われたユーゴスラビアGPでしたが、チームメイトのパガーニが勝利を収めました。しかし、このクラスで注目を集めたのはヤマハ勢です。クノイビューラーやゴウルド、モーティマーらが上位に食い込み、MVアグスタを脅かす存在感を示しました。彼らのマシンは350ccマシンをボアアップしたものでしたが、MVアグスタに迫る速さを誇っていました。この経験は、翌年のYZR500開発に大きく貢献することになります。

350ccクラスでは、アゴスチーニとヤマハのサーリネンの争いが白熱しました。サーリネンは開幕戦でアゴスチーニを破り、その後も好成績を収めて選手権をリード。アゴスチーニはMVアグスタに新型4気筒エンジンを搭載したマシンで反撃を開始し、最終的に5年連続のタイトルを獲得しました。このクラスはアゴスチーニとサーリネンの２人の戦いが中心となり、両者の実力が改めて証明される結果となりました。

250ccクラスは、ヤマハとアエルマッキワークスのパゾリーニの争いでした。開幕戦を金谷が制し、その後はパゾリーニが活躍。しかし、シーズン後半にはサーリネンが勢いを増し、最終的に初タイトルを獲得しました。このクラスは、新鋭勢とベテラン勢の対決が大きな見どころとなりました。

125ccクラスは、マン島TTでのパロッティ選手の事故死という衝撃的な出来事がシーズンを大きく変えました。その後は、ニエト、アンダーソン、ヤンソンらが優勝を争う混戦となり、最終戦までタイトル争いは続きました。最終的にニエトがチャンピオンに輝きました。

50ccクラスは、ニエトとデ・フリースの激しい争いが繰り広げられました。最終的に両者は同ポイントでフィニッシュ。合計タイムで僅差でニエトが勝利し、タイトルを奪還しました。このクラスは、最後まで勝敗が分からず、観客を魅了したスリリングな展開となりました。

この1972年シーズンは、ヤマハの台頭を象徴する年となりました。500ccクラスへの挑戦は、翌年以降のさらなる活躍の礎となり、世界選手権の歴史に大きな影響を与えたシーズンでした。また、マン島TTの安全性問題がクローズアップされ、その後のグランプリ開催にも大きな影響を与えた、重要なシーズンであったと言えます。

もう一度検索