1972年の広島東洋カープ

1972年、根本陸夫監督体制5年目を迎えた広島東洋カープは、チームの飛躍を期して球団史上初の試みに挑んだ。その一つが、米国での春季キャンプ実施だった。しかし、この異国の地での調整はうまくいかず、チームはシーズン開幕から波に乗ることができなかった。

低迷は続き、6月に入るとチームは最下位から抜け出せなくなった。この成績不振の責任を取り、根本監督は休養を選択。後任には打撃コーチだった森永勝也が監督代行として指揮を執ることになった。

巻き返しを図るべく、7月には初の外国人選手としてメジャーリーグMVP経験のあるソイロ・ベルサイエスを獲得。しかし、彼は怪我を抱えており、かつての輝きは見られなかった。続いて入団したトニー・ゴンザレスも年齢による衰えが顕著で、両外国人選手は期待された成績を残せなかった。

投手陣では、外木場義郎や安仁屋宗八といった主力投手が好投を見せる場面が多かった。しかし、打線はつながりを欠き、投手の粘投が得点に結びつかない、いわゆる「見殺し」にする試合が頻繁に見られた。

結局、チームはシーズンを通して浮上できず、8連覇を果たした読売ジャイアンツには24ゲームもの大差をつけられ、1969年以来となる3年ぶりのセントラル・リーグ最下位でシーズンを終えた。

シーズン終了後、チームの立て直しを図るため、この年まで大洋ホエールズの監督を務めていた別当薫を新たな指揮官として招聘した。

選手面では、長年チームを支えた根本監督の休養と前後して、一番打者を務めていた井上弘昭が中日ドラゴンズへトレードされるという動きがあった。また、新外国人選手の加入は選手起用にも影響を与え、トニー・ゴンザレスと同じ外野を守る水谷実雄は、出場機会が減少した。

低迷したシーズンではあったが、個人としては記録に残る出来事もあった。4月29日に行われた対巨人戦で、エース外木場義郎は史上6人目となるノーヒットノーランを達成した。これは彼にとって1965年（対阪神）の準完全試合、1968年（対大洋）の完全試合に続く3度目の快挙であり、往年の名投手・沢村栄治に並ぶ歴代タイ記録となった。さらに、同年7月4日の対中日戦では、初回先頭打者に安打を許したのみで以降は完璧に抑え、準ノーヒットノーランとも言える1安打完封勝利を挙げている。もしこの初回の安打がなければ、史上最多となる4度目のノーヒットノーラン達成だった。

また、7月6日から8日にかけては、主砲の山本浩司が驚異的なバッティングを見せた。彼はこの期間に「9打席連続安打」というセントラル・リーグ新記録（当時）を樹立。続く10打席目もヒット性の当たりだったが、台風の影響で打球が押し戻される不運もあり、記録更新はならなかった。この9打席連続安打の記録は、1978年にヤクルトスワローズのチャーリー・マニエルに破られるまで、セ・リーグの歴史に刻まれていた。

このように、1972年の広島カープは、チームとしては目標を達成できず苦しい一年となったものの、未来につながる若手の台頭や、ベテラン・中堅選手の意地を示す記録が生まれたシーズンでもあったと言える。

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