1972年の日本の女性史

1972年（昭和47年）は、日本の女性たちが様々な分野で声を上げ、社会がその変化の兆しを見せ始めた一年でした。

働く現場での権利確立を目指す動き

年明けには、労働省の審議会で勤労婦人の福祉に関する立法の基本構想が議論され、後に「勤労婦人福祉法」として成立しました。この法律は、妊娠中や出産後の健康管理、育児休業の取得支援などを事業主の努力義務として定めましたが、差別禁止の明記を求める声も上がりました。

職場における具体的な差別に対する訴訟も相次ぎました。日本中野篩絹では生理休暇取得に伴う賃金カットが、神奈川県庁では旧態依然としたお茶くみ慣行が問題提起されました。名古屋や山形の裁判所では、男性より著しく低い年齢で設定された女性の定年制を「公序良俗違反」として無効とする画期的な判決が出ました。また、東芝機械ではベースアップの男女間格差是正が勧告され、名古屋放送では女子職員の定年解雇が無効と判断されるなど、働く女性の雇用継続や均等待遇を求める動きが具体化しました。

出産・育児を理由とする不利益な扱いは大きな問題でした。東洋鋼板では産休明けの配転・解雇の有効性が争われ、全専売は日本専売公社と育児休業に関する労働協約を締結しました。国家公務員や地方公務員に対しては、妊娠中の通勤緩和措置が通達されました。これらの動きは、女性が結婚・出産後も働き続けるための環境整備の必要性を示しています。

消費者としての発言力向上

物価上昇が続く中で、主婦連合会（主婦連）などの消費者団体は、予想される消費者米価の引き上げや公共料金の値上げ、大型予算に反対する声明を発表しました。化粧品の価格構成を発表し、再販制度（メーカーが小売価格を拘束する制度）廃止を求めるなど、消費者の立場から市場のあり方に提言を行いました。国際消費者機構の総会でも、再販制度廃止が採択されるなど、その活動は国際的な広がりも見せました。洗剤の問題点を考える会が結成されるなど、暮らしに密着した問題への意識も高まりました。

女性解放運動（ウーマンリブ）の広がり

この年は、ウーマンリブ運動が具体的な活動として展開された年でもありました。第1回リブ大会が開催され、「リブの問題を一切合切煮詰める」というスローガンの下、様々なテーマが議論されました。「中年リブの会」が結成され、生活に根ざした問題意識を持つ中年女性の連帯が呼びかけられました。

「産む自由・産まない自由」を巡る議論

優生保護法の一部改正案が閣議決定され、人工妊娠中絶の許可基準から経済的理由が削除されるという内容に対し、女性団体やリブ・グループから強い反対運動が起こりました。「産む自由・産まない自由は女性にある」と訴え、中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する「女性解放連合（中ピ連）」が結成されるなど、女性の身体の自己決定権を巡る議論が活発化しました。

社会的な出来事と女性

浅間山荘事件では、立てこもった息子への母親の呼びかけが事件に影響を与えたと報じられました。外務省機密漏洩事件では、情報源となった女性事務官と記者の関係がワイドショーなどでセンセーショナルに報じられ、事件の本質よりも個人の問題に焦点がすり替えられるという側面が浮き彫りになりました。

沖縄の施政権返還に伴い、現地での売春問題に取り組む会が結成され、売春防止法の円滑な施行が要望されました。復帰直後の沖縄では、物価高騰に抗議する消費者大会が開催されるなど、生活問題への意識も高まりました。

法律と司法の新たな解釈

法律や司法の分野でも、女性に関する新たな判断が示されました。交通事故で負傷した専業主婦の家事労働が経済的価値を持つものとして評価される裁判例が出た一方で、休業補償が認められないケースもありました。また、交通事故における夫婦間の賠償請求を巡る裁判では、「妻は他人」として損害保険金が支払われるべきとの最高裁の判断が示され、法律上の夫婦のあり方について示唆を与えるものとなりました。

その他、保育を巡っては、日教組が集団保育保障を提案する一方で、無認可保育所の劣悪な環境で乳児が死亡する事件も発生しました。女子としては初の裁判所長が誕生するなど、キャリアにおける進展も見られました。年末には、女性誌の高い発行部数や、性別役割分業を肯定する意識が男女共に強いことが調査で示されるなど、社会の変化と並行して根強い意識が存在することも明らかになりました。

1972年は、働く女性の権利、消費者としての自覚、身体の自己決定権といった様々な側面で女性が自らの権利を主張し、社会に変化を求める活発な動きが見られた年であり、日本の女性史における重要な節目となりました。

もう一度検索