1973年アメリカグランプリ

1973年アメリカグランプリは、F1世界選手権のシーズン最終盤を飾る重要な一戦でした。1973年10月7日、ワトキンズ・グレン・サーキットで、多くのドラマを孕んだレースが繰り広げられました。

このレースは、レジェンド、ジャッキー・スチュワートにとって特別な意味を持つものでした。3度目のワールドチャンピオンの栄冠に輝いた彼は、このアメリカGPをもってF1からの引退を表明していました。100戦目という節目のレースが、彼のF1キャリアの最後を飾る舞台となったのです。

スチュワートの後継としてティレルチームのエースドライバーに抜擢されたのは、彼のナンバー2として活躍してきたフランソワ・セベールでした。セベールは当時ドライバーズランキングで3位に位置しており、このレースの結果次第では2位に浮上する可能性がありました。チームメイトには、マクラーレンからジョディー・シェクターが加入することが決まっていました。

一方、コンストラクターズランキングでは、ロータスとティレルが僅差で争っており、このアメリカGPの結果が最終的なチャンピオンを決める重要なレースとなっていました。

このレースには、フリーランスとして活躍していたジャッキー・イクスもスポット参戦しました。彼はイソ・マールボロのマシンをドライブしましたが、ビザの関係で土曜日からの参加となりました。

予選では、ロニー・ピーターソンが驚異的な速さを見せつけます。彼は、前年スチュワートが記録したタイムを0.8秒も短縮する1分39秒657という驚異的なタイムを記録し、ポールポジションを獲得しました。これは、コンピューターが算出したF1マシンの限界タイムである1分40秒を下回る、驚くべき記録でした。

しかし、このレースは悲劇によって色付けられることになります。セベールは、予選2日目午前のセッション中に、高速S字コーナーのエセスでマシンをコントロールを失い、ガードレールに激突しました。その衝撃でマシンは反対側に跳ね飛ばされ、ガードレールの真上に落下。セベールは、その場で命を落としてしまいました。

この悲劇的な事故を受け、ティレルチームはスチュワートとクリス・エイモンの決勝レースからの撤退を決定しました。セベールの死は、チーム全体に大きな衝撃を与え、レースの雰囲気を重苦しいものに変えました。

決勝レースは、ピーターソンがクラッチ操作のミスをしながらも首位を走行する展開でスタートしました。2位にはロイテマン、3位にはジェームス・ハントがつけました。ハントはその後、4周目に2位に浮上し、ピーターソンを猛追しました。

ハントはマシンのアンダーステアに苦しみながらも、最後までピーターソンを追い詰めました。しかし、ピーターソンは0.668秒差で逃げ切り、見事優勝を果たしました。この勝利により、ロータスがコンストラクターズチャンピオンを獲得しました。ピーターソンは、セベールの死という悲劇の中、ドライバーズランキング3位に浮上しました。スポット参戦のイクスは、1周遅れで7位で完走しました。

この1973年アメリカグランプリは、ジャッキー・スチュワートの引退、フランソワ・セベールの悲劇的な死、そしてチャンピオンシップ争いの決着という、様々なドラマが凝縮された、記憶に残るレースとなりました。 その結果、ピーターソンの勝利、ロータスのコンストラクターズタイトル獲得という結果が生まれたものの、セベールの死という影は、このレースの輝きを永遠に色褪せぬものとしてしまいました。 多くの関係者にとって、このレースは喜びと悲しみが複雑に絡み合った、忘れられない一日となったのです。

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