1982年の日本の女性史
1982年（昭和57年）は、日本の女性を取り巻く状況に多くの動きが見られた年でした。
この年、国際的な報道に貢献した記者に贈られるボーン・上田記念国際記者賞を、朝日新聞の下村満子氏が女性として初めて受賞しました。また、女性初の税務署長が誕生したり、証券アナリスト試験に女性が初めて合格するなど、専門職分野での女性の進出が具体的な形で示されました。スポーツ界でも、岡本綾子氏がゴルフの米公式ツアーで優勝し、大貫映子氏が日本人として初めてドーバー海峡横断水泳に成功するなど、女性アスリートの活躍が注目を集めました。
一方で、働く女性たちの労働環境には依然として課題が多いことも明らかになりました。ある調査では、民間主要労組の女性労働者のうち、仕事にやりがいを感じる人が6割に上る一方で、賃金・手当や昇進、能力評価における女性差別を感じている人も多数存在する結果が示されました。労働省の調査によれば、女子労働者数は1391万人に達しましたが、賃金の男女格差は拡大傾向にあることが報告されています。企業における男女差別的な定年制については、行政指導により撤廃が進む一方、40歳未満での定年や結婚・出産を理由とする退職制度が残る企業も確認されました。パートタイマーの労働災害に関する裁判では、逸失利益の算定基準が争点となり、事故当時の賃金を基準とすべきとの判決が出されました。
女性たちは、自らの権利や社会のあり方に関する議論にも積極的に関わりました。男女平等問題の専門家会議は、雇用における男女平等の判断基準に関するガイドラインを発表し、今後の制度設計への影響が期待されました。しかし、行政改革の中で総理府婦人問題担当室や労働省婦人少年局の廃止が検討される動きに対しては、国際婦人年連絡会などが廃止反対の要望を提出するなど、反発の声があがりました。また、臨時の行政調査会（臨調）の報告案に婦人保護費の全廃や児童扶養手当・生活保護費の削減案が盛り込まれたことについても、女性の生活への影響が懸念されました。
さらに、優生保護法の「経済的理由による妊娠中絶」規定を削除する動きに対し、「'82優生保護法改悪阻止連絡協議会」が結成され、婦人議員懇談会も改正反対を決議するなど、女性の身体に関わる法制度への関心も高まりました。
反核・軍縮を求める社会運動には多くの女性が参加し、平和への訴えを行いました。汚職に関係した候補者への投票を行わない運動も活発化し、主婦連合会など女性団体が中心となって活動しました。また、地域レベルでの取り組みも進みました。神奈川県では、1975年の国際婦人年を契機とした女性問題への取り組みが発展し、この年に「かながわ女性プラン」を策定。県民が策定に参加する視点を取り入れ、「婦人企画室」の設置や、県下の女性団体が集結した「かながわ女性会議」の誕生、そして女性の活動拠点となる「婦人総合センター」のオープンと、三本柱が揃ったことから、この年を「かながわ婦人元年」と位置づけました。
家族のあり方や私生活にも変化が見られました。ある調査では、夫が家事を全くしない家庭が半数を超える実態や、「男は仕事に専念すべき」という考えを持つ人が少なくないことが明らかになりました。人口動態統計では、婚姻数・出生数が過去最低を記録する一方、離婚数は過去最高の16万5000組に達し、特に結婚歴10年以上の離婚、いわゆる熟年離婚の急増が注目されました。ベビーホテル利用者の実態調査からは、母子世帯の利用が多いことや、サービス業に従事する母親が多く、深夜まで預けるケースが少なくない現状が浮かび上がりました。高齢者問題に関するシンポジウムも女性の発起人代表により開催され、高齢化社会における女性の役割や負担についても議論されました。
私生活の変化に対応する新しい動きもありました。都内には繁華街に近い保育所で夜間保育が始まり、認可保育所の保育時間も延長されました。離婚に関する相談に応じる専門の相談室が開設されたほか、女子大生を対象とした「レディース・ローン」が登場するなど、個人のライフスタイルやニーズに応じたサービスも生まれました。また、暗い出来事として、ある地域では女子中学生3人が次々に飛び降り自殺するという痛ましい事件も発生し、同年代の女性たちの心の内に抱える問題を示唆しました。
文化面では、京都に日本初の女性専門書店がオープンしました。教育現場では、この年度の新規採用教員に占める女性の割合が半数を割りました。大学を卒業した女性の就職難も深刻で、上場企業の多くが女子学生の採用をゼロとする実態が報告されました。学術・言論界では、上野千鶴子氏がマルクス主義フェミニズムの研究者として登場し、その著作『セクシィ・ギャルの大研究』を発表するなど、日本のフェミニズム理論に新たな地平を切り開く存在として注目を集め始めました。
1982年は、女性が社会の様々な領域で力を発揮し始めた年であると同時に、労働における不平等、家族のあり方の変化、法制度や社会保障を巡る議論など、多くの課題が顕在化した年でした。これは、来るべき社会の変化を予感させる一年であったと言えるでしょう。
社会で活躍する女性と労働現場の現実
この年、国際的な報道に貢献した記者に贈られるボーン・上田記念国際記者賞を、朝日新聞の下村満子氏が女性として初めて受賞しました。また、女性初の税務署長が誕生したり、証券アナリスト試験に女性が初めて合格するなど、専門職分野での女性の進出が具体的な形で示されました。スポーツ界でも、岡本綾子氏がゴルフの米公式ツアーで優勝し、大貫映子氏が日本人として初めてドーバー海峡横断水泳に成功するなど、女性アスリートの活躍が注目を集めました。
一方で、働く女性たちの労働環境には依然として課題が多いことも明らかになりました。ある調査では、民間主要労組の女性労働者のうち、仕事にやりがいを感じる人が6割に上る一方で、賃金・手当や昇進、能力評価における女性差別を感じている人も多数存在する結果が示されました。労働省の調査によれば、女子労働者数は1391万人に達しましたが、賃金の男女格差は拡大傾向にあることが報告されています。企業における男女差別的な定年制については、行政指導により撤廃が進む一方、40歳未満での定年や結婚・出産を理由とする退職制度が残る企業も確認されました。パートタイマーの労働災害に関する裁判では、逸失利益の算定基準が争点となり、事故当時の賃金を基準とすべきとの判決が出されました。
制度・政策への関与と反発
女性たちは、自らの権利や社会のあり方に関する議論にも積極的に関わりました。男女平等問題の専門家会議は、雇用における男女平等の判断基準に関するガイドラインを発表し、今後の制度設計への影響が期待されました。しかし、行政改革の中で総理府婦人問題担当室や労働省婦人少年局の廃止が検討される動きに対しては、国際婦人年連絡会などが廃止反対の要望を提出するなど、反発の声があがりました。また、臨時の行政調査会（臨調）の報告案に婦人保護費の全廃や児童扶養手当・生活保護費の削減案が盛り込まれたことについても、女性の生活への影響が懸念されました。
さらに、優生保護法の「経済的理由による妊娠中絶」規定を削除する動きに対し、「'82優生保護法改悪阻止連絡協議会」が結成され、婦人議員懇談会も改正反対を決議するなど、女性の身体に関わる法制度への関心も高まりました。
社会運動と地域での取り組み
反核・軍縮を求める社会運動には多くの女性が参加し、平和への訴えを行いました。汚職に関係した候補者への投票を行わない運動も活発化し、主婦連合会など女性団体が中心となって活動しました。また、地域レベルでの取り組みも進みました。神奈川県では、1975年の国際婦人年を契機とした女性問題への取り組みが発展し、この年に「かながわ女性プラン」を策定。県民が策定に参加する視点を取り入れ、「婦人企画室」の設置や、県下の女性団体が集結した「かながわ女性会議」の誕生、そして女性の活動拠点となる「婦人総合センター」のオープンと、三本柱が揃ったことから、この年を「かながわ婦人元年」と位置づけました。
変化する家族と私生活
家族のあり方や私生活にも変化が見られました。ある調査では、夫が家事を全くしない家庭が半数を超える実態や、「男は仕事に専念すべき」という考えを持つ人が少なくないことが明らかになりました。人口動態統計では、婚姻数・出生数が過去最低を記録する一方、離婚数は過去最高の16万5000組に達し、特に結婚歴10年以上の離婚、いわゆる熟年離婚の急増が注目されました。ベビーホテル利用者の実態調査からは、母子世帯の利用が多いことや、サービス業に従事する母親が多く、深夜まで預けるケースが少なくない現状が浮かび上がりました。高齢者問題に関するシンポジウムも女性の発起人代表により開催され、高齢化社会における女性の役割や負担についても議論されました。
私生活の変化に対応する新しい動きもありました。都内には繁華街に近い保育所で夜間保育が始まり、認可保育所の保育時間も延長されました。離婚に関する相談に応じる専門の相談室が開設されたほか、女子大生を対象とした「レディース・ローン」が登場するなど、個人のライフスタイルやニーズに応じたサービスも生まれました。また、暗い出来事として、ある地域では女子中学生3人が次々に飛び降り自殺するという痛ましい事件も発生し、同年代の女性たちの心の内に抱える問題を示唆しました。
文化・教育・その他の側面
文化面では、京都に日本初の女性専門書店がオープンしました。教育現場では、この年度の新規採用教員に占める女性の割合が半数を割りました。大学を卒業した女性の就職難も深刻で、上場企業の多くが女子学生の採用をゼロとする実態が報告されました。学術・言論界では、上野千鶴子氏がマルクス主義フェミニズムの研究者として登場し、その著作『セクシィ・ギャルの大研究』を発表するなど、日本のフェミニズム理論に新たな地平を切り開く存在として注目を集め始めました。
1982年は、女性が社会の様々な領域で力を発揮し始めた年であると同時に、労働における不平等、家族のあり方の変化、法制度や社会保障を巡る議論など、多くの課題が顕在化した年でした。これは、来るべき社会の変化を予感させる一年であったと言えるでしょう。
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