1982年カナダグランプリ

1982年カナダグランプリ：悲劇と勝利の影

1982年6月13日、カナダのモントリオール近郊にあるサーキット・ジル・ヴィルヌーヴで開催されたF1カナダグランプリは、勝利と悲劇が交錯した、記憶に残る一戦となりました。このサーキットは、1982年ベルギーGP予選で事故死したジル・ヴィルヌーヴへの追悼として、それまでの名称から改称されたばかりでした。

このレースで優勝を掴んだのは、ネルソン・ピケでした。彼は、当時最新鋭の技術を搭載したBMWターボエンジンを積んだブラバムで力強い走りを見せ、見事にチェッカーフラッグを受けました。この勝利は、BMWエンジンにとってF1初優勝という大きな意味を持つものでした。しかし、この栄光の瞬間の裏側では、想像を絶する悲劇が起きていたのです。

悲劇のスタート：避けられない衝突

決勝レースは、スタート直後から予期せぬ事態に陥りました。フォーメーションラップ終了後、後続車がグリッドに整列するのに時間を要し、スタートの合図であるレッドシグナルの点灯が遅れました。その結果、ポールポジションからスタートしたディディエ・ピローニ（フェラーリ）の車が、レッドシグナル点灯の瞬間にエンジンストールを起こしてしまいました。

グリッド上に止まったピローニの車を避けようとした後続車の中で、ラウル・ボーセル（マーチ）がピローニと接触。さらに、その直後を走っていたリカルド・パレッティ（オゼッラ）が、時速160キロという猛スピードでピローニのフェラーリの後部に正面衝突するという、凄惨な事故が発生しました。パレッティのマシンはフロント部分が大きく損壊し、彼はがれきの塊に閉じ込められた状態になってしまいました。

事故後、コースマーシャルとピローニ自身を含む関係者らが救助活動に当たりましたが、パレッティは大きく損壊したマシンに挟まれた状態であったため、救助作業は難航しました。さらに、事故現場では破損したマシンからガソリンが流出し、引火する危険性があったため、消火作業にも追われました。結局、パレッティが救出されるまでには30分もの時間がかかりました。

ヘリコプターで病院に搬送されたパレッティでしたが、内臓破裂（胸部をステアリングが圧迫したことにより胸郭破裂したという説もある）のため、搬送から約2時間後に死亡が確認されました。この事故を受け、オゼッラチームはレースからの撤退を余儀なくされました。

レース中断と再スタート

パレッティ選手の悲劇的な死をきっかけに、レースは一時中断されました。再スタート後も、上位争いは激しいものとなりましたが、ピケのBMWターボ搭載ブラバムの速さは群を抜いており、最終的に優勝を収めました。しかし、この勝利は、パレッティ選手の死という影を常に背負うこととなりました。

予選とレース結果

予選は26台が決勝進出を果たしました。決勝レースは、前述の通りスタート直後のアクシデントにより一時中断、その後再スタートという異例の展開となりました。パレッティ選手の事故により、オゼッラはレースを棄権しました。

このレースの結果、ネルソン・ピケはドライバーズランキングで首位をキープし、コンストラクターズランキングでもブラバムが上位を維持しました。しかし、勝利の喜びを完全に満喫することは、誰にとっても難しい状況であったことは言うまでもありません。1982年カナダグランプリは、速さと技術の競演だけでなく、サーキットにおけるリスクと、ドライバーたちの命の尊さを改めて認識させる、忘れられないレースとしてF1の歴史に刻まれました。

脚注

※ドライバー、コンストラクターランキングはトップ5のみ記載。

外部リンク

The Official Formula 1 website
Canadian GP, 1982 Race Report - Grandprix.com

もう一度検索