1989年の全日本ロードレース選手権

1989年シーズンの全日本ロードレース選手権は、2月26日の筑波サーキットでの開幕戦から始まり、10月29日に同じく筑波で開催された最終戦、第26回MFJグランプリまで、年間合計で16戦が開催されました。この年のシリーズでは、最高峰クラスである500ccにおいて、ヤマハの藤原儀彦が前年に続き圧倒的な強さを見せ、前人未踏となる3年連続のチャンピオン獲得という偉業を成し遂げました。

500ccクラスの戦い

チャンピオンである藤原儀彦は、ヤマハのYZR500を駆り、3連覇という目標に挑んだシーズンでした。しかし、開幕前のテスト走行中に足を負傷するというアクシデントに見舞われ、シーズン序盤は万全とは言えないコンディションでの戦いを強いられます。ヤマハ陣営は藤原を筆頭に、ベテランの片山信二を配し、さらにTT F1クラスでヤマハYZF750の開発と並行して実績を積んでいた町井邦生がこの年500ccクラスへ本格的に転向、ネスカフェの強力なスポンサードを得てフルエントリーしました。また、ワークスマシンYZR500の開発ライダーでもあった平忠彦は、グランプリでのヤマハユーザーの活動を見据えつつ、全日本選手権へはスポット参戦という形を取りましたが、出走すれば常に優勝争いに絡む速さを見せ、鈴鹿8時間耐久ロードレースへも参戦するなど存在感を示しました。

一方、ホンダ陣営は体制を強化。3年のブランクを経て全日本選手権に復帰した八代俊二がホンダNSR500でフル参戦を開始。伊藤真一、宮城光といった実力者たちに加え、八代の復帰はチームの層を厚くし、ヤマハ打倒を目指しました。

スズキは、ワークス復活3シーズン目を迎え、RGV-Γを投入。前年からのコンビである樋渡治と辻本聡が、Schick ADVANTAGEのカラーリングを纏い参戦を続けましたが、水谷勝はエントリーリストに名を連ねず、このシーズンの参戦は見送られました。

250ccクラスの熱戦

250ccクラスでも、各メーカー、チームが激しい戦いを繰り広げました。ヤマハ陣営は、前年に7勝を挙げチャンピオンとなったUCCヤマハの本間利彦が、この年から初めて開幕戦よりV型2気筒エンジンのYZR250を投入。TT F3クラスでチャンピオンを獲得した塩森俊修も、4年ぶりに250ccクラスへ復帰し、キリンMetsヤマハRTからもう一台のYZRを駆りました。また、前年TZ250でシリーズランキング4位だった難波恭司と、ジュニア125ccクラスチャンピオンから国際A級へ昇格したルーキー原田哲也が、ワークスのサポートを受けたTZ250で参戦。特に原田は、500ccの町井邦生と共に「ネスカフェ・ヤマハ」からのエントリーとして注目を集めました。

ホンダは、前年250ccクラスへのスポット参戦で2勝を挙げた田口益充を、この年から本格的に250ccへ転向させ、奥村裕、小林大とともに味の素ホンダのNSR250で本間を中心とするヤマハ勢に対抗する強力な3人体制を構築しました。さらに、サテライトチームとして日本たばこ産業（JT）の支援を受けた「キャビンレーシング」が発足し、型こそ1年落ちながらワークスマシン仕様のNSRを、前年ランキング11位の宇田川勉と同14位の岡田忠之に供給。市販レーサーであるTZで前年ベストプライベーターとしてランキング6位に入った新井純也もホンダのサポートを受けるなど、チャンピオン奪還に向けた万全の体制を敷きました。

また、特筆すべきライダーとして、特別昇格制度によって17歳で国際A級にステップアップした青木宣篤が挙げられます。日清食品のカップヌードルの協賛を得て設立された「カップヌードル・レーシングチーム」から、250ccクラスにはRS250R、TT F3クラスにはNSR250RKでダブルエントリーを果たし、若き才能が日本のロードレース界に新たな風を吹き込みました。

シリーズ運営とポイント

全16戦のカレンダーには含まれていましたが、一部の大会（2月26日の第1戦筑波や7月23日の第11戦鈴鹿ジュニア6時間耐久レースなど）では国際A級クラスのレースは開催されませんでした。また、3月23日に開催されたロードレース世界選手権（WGP）開幕戦鈴鹿では、全日本選手権のTT F3クラスが併催され、このレースにも全日本選手権のポイントが付与されています。シリーズポイントシステムでは、最終戦であるMFJ-GPにおいては特別ポイントが設定され、入賞したライダーには通常のポイントに加えて3ポイントが加算されるルールが採用され、最後までチャンピオン争いの行方が分からないスリリングな展開を演出しました。

最高峰500ccクラスでの藤原儀彦の3連覇という歴史的快挙に加え、250ccクラスや、125cc、TT F1、TT F3といった各クラスでも、ベテランから新鋭まで、多士済々のライダーたちが国内外の有力マシンを駆り、技術と速さを競い合った記憶に残るシーズンでした。

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