1990年の日本競馬

1990年の日本競馬界：空前のブームと平成三強の激闘

1990年（平成2年）、日本社会がバブル景気に湧き立つ中で、競馬人気もまたかつてないほどの盛り上がりを見せました。オグリキャップをはじめとするカリスマ的な人気馬、そして武豊騎手ら若手スター騎手の活躍が多くのファンを惹きつけ、全国の競馬場は熱狂の渦に包まれました。

特に中央競馬では、記録的な入場者数を更新しました。この年の東京優駿（日本ダービー）が開催された5月27日の東京競馬場には、現在でも歴代最多となる196,517名もの観衆が詰めかけました。レースを勝利したアイネスフウジンの鞍上、中野栄治騎手には「ナカノ！ナカノ！」という熱狂的なコールが巻き起こり、GIレースの勝利騎手に対してこのような声援が送られたのは、この時以来と言われています。また、年末、競馬ブームを牽引したオグリキャップの引退レースとなった第35回有馬記念が開催された12月23日の中山競馬場も、中山競馬場における歴代最多となる177,779名を記録しました。このレースで劇的な勝利を飾ったオグリキャップと武豊騎手には、「オグリコール」「ユタカコール」という盛大な声援が送られ、多くのファンの感動を呼びました。

この年の競馬界の中心には、前年から中長距離戦線を賑わせていたオグリキャップ、スーパークリーク、イナリワンの「平成三強」の存在がありました。春の天皇賞では、オグリキャップ不在の中、スーパークリークが期待に応えて勝利し、天皇賞秋・春連覇を達成。鞍上の武豊騎手は前年のイナリワンに続く天皇賞春連覇、そして天皇賞3連覇という偉業を成し遂げました。休養明けのオグリキャップは、武豊騎手との新コンビで安田記念に出走し、1分32秒4の日本レコードを樹立する圧巻のパフォーマンスで勝利。続く宝塚記念では三強対決が期待されましたが、スーパークリークが筋肉痛で回避。レースはオサイチジョージが制し、オグリキャップは2着、イナリワンは4着に敗れました。このレース後、イナリワンは脚部不安で引退。スーパークリークも秋初戦の京都大賞典を制したものの、直後に故障が判明しターフを去ることになりました。秋シーズンに入り精彩を欠いていたオグリキャップでしたが、引退レースと定めた有馬記念で、再び武豊騎手を背に奇跡的な復活勝利を遂げ、多くのファンの記憶に深く刻まれる一戦となりました。

中央競馬の競走体系においても重要な変更がありました。これまで春にGIIとして行われていたスプリンターズステークスがGIに昇格し、開催時期も有馬記念の1週間前の12月へと変更されました。GI昇格初年度のレースはバンブーメモリーが制し、同馬は2年連続でJRA賞最優秀スプリンターに選出されました。

この年には他にも様々な出来事がありました。札幌競馬場に日本初の洋芝コースが新設されたり、中央競馬で新型の発馬機「JSS90型」の使用が開始されたりしました。また、失格が発生した際にパトロールフィルムを公開する措置が導入され、透明性が向上しました。さらに、アメリカ合衆国の女性騎手ジュリー・クローンが中央競馬で初めて騎乗し、勝利を挙げたこと、ジャパンカップで去勢馬のベタールースンアップがJRAGI競走史上初めて優勝したことなども特筆されます。地方競馬でも、年間表彰制度「NARグランプリ」が新設されるなど、競馬界全体で様々な動きが見られました。

1990年は、空前の競馬ブームの中で歴史的な名勝負が繰り広げられ、多くの記録が生まれ、また制度面でも新たな一歩が踏み出された、まさに日本競馬の輝かしい時代を象徴する一年と言えるでしょう。

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