19901108

COMPLEXの軌跡と終焉を刻んだ『19901108』

1991年1月23日、日本の音楽シーンに衝撃が走った。ロックユニットCOMPLEXのライブアルバム『19901108』、そして同年2月14日にはライブビデオがリリースされたのだ。この作品は、1990年11月8日に東京ドームで開催された彼らのラストライブ「ROMANTIC EXTRA」を収録。COMPLEXにとって初のライブアルバム、そして約1年3ヶ月ぶりのライブビデオ作品となった。

アルバムには全21曲中14曲、ビデオには16曲が収録され、その多くは1stアルバム『COMPLEX』と2ndアルバム『ROMANTIC 1990』からの選曲だ。オリコンアルバムチャートでは最高位2位を獲得し、40万枚を超えるセールスを記録、プラチナ認定を受ける大ヒットとなった。この作品は、1998年のベストアルバムリリースまで、COMPLEXの最後の作品として長く音楽ファンの記憶に刻まれることとなった。

COMPLEX結成から活動休止までの経緯

吉川晃司と布袋寅泰という、日本の音楽シーンを代表する2人によって結成されたCOMPLEX。1989年のデビューシングル「BE MY BABY」と1stアルバム『COMPLEX』は共にオリコンチャート1位を獲得する快挙を成し遂げた。B'zの松本孝弘も「COMPLEXが続いていたら、俺たちは何も出来なかった」と評するほど、彼らの音楽性と人気は圧倒的だった。

しかし、華々しい成功の裏には、2人の間に生まれた亀裂があった。布袋はCOMPLEXの存在意義を問われることが多く、自身のソロ活動への葛藤を抱えていた。一方、吉川はバンド演奏への憧憬からCOMPLEXに参加したが、2人の音楽的志向やキャリアに対する考え方の違いは、次第に溝を深めていった。

2ndアルバム『ROMANTIC 1990』の制作では、意見の相違から完全な分業体制で制作が行われた。既に関係は破綻していたものの、アルバムを2作で終わらせるのは格好悪いという考えから、2ndアルバムはリリースされた。続くコンサートツアー「ROMANTIC 1990 TOUR」を終え、吉川は東京ドームでの最終公演を提案するも、ソロアルバム制作中の布袋は当初反対した。しかし、吉川の熱意とスタッフの賛同により、東京ドーム公演は実現することとなった。

東京ドーム公演と活動休止

『19901108』に収録された東京ドーム公演は、両者にとって複雑な思いが交錯する舞台となった。吉川は公演の成功を感じながらも、衣装トラブルや、布袋との微妙な関係性の中でライブを行ったことを振り返っている。一方、布袋には「日本の音楽のパイオニア」としての大きな期待がかけられていたが、吉川はそれに対するプレッシャーを感じていなかったという。

東京ドーム公演を最後にCOMPLEXは活動休止。打ち上げの席で吉川は布袋に「一緒にやらなかったら、友達でいられたかもしれないね」という言葉を残し、その後2人は会うことはなくなった。しかし、吉川は後年、布袋への感謝を述べており、複雑な関係性ながらも、互いに影響を与え合ったことを認めている。布袋も、吉川の自由な表現力と自身の綿密な制作スタイルの違いが、バンドの終焉に繋がったと分析している。

作品評価とその後

音楽情報サイト『CDジャーナル』は、このライブアルバムを「イカ天ブームの源流みたいなおふたり」と評し、東京ドーム公演での一体感を絶賛。音源についても肯定的な評価を与えている一方、活動休止については惜しむ声も挙げている。

『19901108』は、COMPLEXというユニットの輝かしい成功と、その悲劇的な終焉を記録した作品であると同時に、吉川晃司と布袋寅泰という二人のアーティストの複雑な関係性と、それぞれのキャリアにおける重要な転換点を示す作品と言えるだろう。その後、COMPLEXは期間限定で復活を果たすが、『19901108』は、彼らが築き上げた歴史の重要なマイルストーンとして、今も多くのファンに記憶されている。

収録曲、スタッフクレジットについては、本文に記載されている情報に基づき、CDブックレットやDVD付属の歌詞カードを参照ください。

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